TOEIC955点を取ってみて思ったこと。

昨年末に受験したTOEICテストで955点を取りました。

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このこと自体をドヤるつもりは全くないのですが、世の中的にはそれなりに高得点だと思われますし、これから就職活動をされる司法試験受験生・司法修習生にとってもTOEIC(英語)は関心事の一つかと思われますので、「ぶっちゃけどうなの?」というところを自作自演のQ&A方式で書いてみたいと思います。

なお、①本記事の内容はあくまでも私の超個人的な経験・感覚に基づくものであって全ての人に当てはまるとは限らない点、②2016年5月から試験形式が変更予定のため試験対策に関する部分は今後通用しなくなる可能性がある点については、何卒ご了承ください。

Q1. 955点取るまでにどのくらい勉強した?

 それなりに勉強しましたが、司法試験のようにめちゃめちゃ頑張ったという感じではないです。具体的には、週平均で3時間程度問題集を解く生活を3か月くらい続けた感じです。ただ、試験の2週間くらい前からは本番の時間感覚に慣れるため、2日で1回分の模試を解くペースで集中的に勉強しました。ちなみに、司法試験以降TOEICの本試験を受けたのは今回が初めてでした。

Q2. もともと英語が得意だったの?

全然そんなことはないです。学部生時代は550点、ロースクール生時代は785点と、いたって平凡な点数でした。英語圏への留学経験もありませんし、弁護士デビューするまで全く英語とは無縁の生活でした。ただ、大学受験時代はセンター試験で満点近く取っていた記憶があるので、「受験英語」はそれなりに得意だったのかもしれません。

Q3. 高得点を取るコツは?

とにかく出題形式とスピード感に「慣れる」ことです。イメージとしては、750点くらいまでは英語力で差がつく感じですが、それ以降は限られた時間内でどれだけ効率よく問題を捌けるかという勝負になる気がします。本当に笑えるくらい同じような問題ばかり出るので。勉強法に関しては、気が向いたら別記事で書こうと思います。

Q4. オススメの教材は?

ヒロ前田氏の「究極のゼミ」シリーズがオススメです。単語帳についてはTEX加藤氏の「金のフレーズ」を愛用していました。860点以上・900点以上にフォーカスした教材も多いですが、高得点を取るために特別な知識や技術は必要ないので(少なくとも私は何も特別なことはやってません)、基本的には一つの教材を何度も繰り返して理解することが重要だと思います。司法試験と同じですね。

Q5. 955点取って何か変わった?得したことは?

正直、あまりないですね。世間的には高得点ですので、私の本当の英語力を知らない人に対してちょっとだけドヤれることでしょうか。もし日本国内の他の事務所や企業に転職する際には、一応「英語ができる人」として評価してもらえる可能性はあるかもしれません。

Q6. 普段の業務で英語はどのくらい使う?

めちゃめちゃ使います。そもそも同じオフィスにネイティブの弁護士(米国・英国・豪州etc.)がいるので、彼らと一緒に会議に入る時は強制的に全て英語になります。 英文契約のレビューの仕事もありますし(自分でドラフトすることはまだ少ないですが)、時期によっては一日に受信するメールの半分以上が英語だったりします。キツいっす!

Q7. ぶっちゃけ、どのくらいしゃべれる?

全然しゃべれていません。まだペーペーなので、英語の会議で発言を求められることは少ないですが、 自分の見解を口頭で伝えられるレベルには程遠いです。そもそもリスニング力が不十分なので、議論自体についていけていないことも多いです。ここは本当にもどかしいです。一方、英文契約のレビューや英文のメールの作成については、(時間はかかりますが)なんとかこなせるかな、というレベルです。

Q8. TOEICの点数が高いと(司法修習生の)就職活動に有利?

(事務所の取扱分野によりますが)一般的には有利だと思います。某大規模事務所の(当時の)採用担当パートナーは、「800点以上あれば『おっ』と思うし、少なくとも書類はちゃんと読もうという気になる」とおっしゃっていました。ただ、TOEICのスコアが低い(あるいは持っていない)と不利になるかというと、そうでもないという印象です。私のようにTOEICができても実務英語はできないという人は多いですし、実務に出てから鍛えることも十分に可能ですので、他に光るモノがあれば採用するという事務所も多いと思います。

Q9. 企業法務系の弁護士はみんな英語ができる?

人によりますね。プロフィールに「取扱言語:日本語、英語」と書いてあるのをよく見かけますが、あれほとんど関係ないです。笑 留学経験があっても、ほとんど英語案件を扱わない弁護士もいれば、その逆も然りです。超個人的な感覚としては、男性弁護士よりも女性弁護士の方が(英語に限らず)総じて語学能力が高いように思います。また、少なくともスピーキングについては、外部弁護士よりも企業の法務担当者(インハウス含む)の方が総じて流暢な気がします。

Q10. 今後の目標は?

ピーキングとリスニングをもっと鍛えて、ネイティブを交えた会議で自分の意見が言えるようになることです。前者については、とにかく物怖じせずに、話題はなんでもいいからネイティブに話しかけることが重要だと思っています。また、留学したいという思いもあるので、少しづつでもTOEFLの勉強も進めていきたいと思っています(TOEICとは難易度が全く違いますので…)。英語ができれば(できるだけで)間違いなく仕事の幅が広がるので、キツくても絶対に頑張る価値はあります。

 

以上、とりあえず10個の質問にこたえる形で書いてみました。もっと「ここが聞きたい!」というのがあれば、コメント欄に書き込んでいただけるとありがたいです。

 

【書評】瀧本哲史著『僕は君たちに武器を配りたい』

GWはヒマなのでブログを更新しまくっております。笑 

さて、本日読んだ本はコチラ。京都大学准教授・瀧本哲史氏の本です。

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あえてジャンル分けするならば、いわゆる「自己啓発本」の類に属するのだと思いますが、本書は毒にも薬にもならない安っぽい自己啓発本とはワケが違います(ちなみに、瀧本氏は、昨今のいわゆる自己啓発本や勉強本のブームは「不安解消マーケティング」の産物にすぎないと一蹴しています)。

同氏の著書はこれまでにも数冊読んだことがありますが、どれもその一文一文から同氏の深い知性と鋭い感性が感じられます。東大法学部の学士助手(!)やマッキンゼー出身といった輝かしい経歴を引き合いに出すまでもなく、「真に"頭のいい人"ってこういう人のことを言うんだろうなぁ」と読み返すたびに思います。

  

瀧本氏は、「より安く、よい良い商品」が求められる資本主義社会の下では、個性のないものは全てコモディティとされる。つまり、資格やTOEICといった誰にでも取得できるもので自分を差別化しようとする限り、コモディティ化した人材となることを避けられず、最終的には「安いことが売り」の人材になるしかないと主張します。

 

そして、資本主義社会で稼げる人材のタイプとして、以下の6つを挙げています(ただ、このうち①②については、社会の劇的な変化に対応できず生き残るのが難しくなるだろうとも述べています)。 

  1. 商品を遠くに運んで売ることができる人(トレーダー)
  2. 自分の専門性を高めて、高いスキルによって仕事をする人(エキスパート)
  3. 商品に付加価値をつけて、市場に合わせて売ることができる人(マーケター)
  4. まったく新しい仕組みをイノベーションできる人(イノベーター)
  5. 自分が起業家となり、みんなをマネーじ(管理)してリーダーとして行動する人(リーダー)
  6. 投資家として市場に参加している人(インベスター)

 さらに、これからの資本主義社会で生き残っていくためには特に⑥が重要で、「市場の歪み」にいち早く察知し、そこに勝機を見い出す「投資家的な発想」が必要であるとします。なぜなら、資本主義社会では、全ての人間は、究極的には投資家になるか、投資家に雇われるか、どちらかの道を選ばざるをえないからだ、と。

 

さて、本書では、案の定というべきか「コモディティ化」する職業・スキルの一つとして、弁護士資格が挙げられています。

弁護士においても、その資格を手にすること自体には、ほとんど意味がないことがお分かりいただけただろうか。

資格や専門知識よりも、むしろ自分で仕事を作る、市場を作る、成功報酬ベースでの仕事をする、たくさんの部下を自分で管理する、というところにこそ、「付加価値」が生まれるのである。

それに対して単に弁護士資格を持っているだけの人は、まったく価値のない「野良弁」になってしまう。稼げない「野良弁」と、すごく成功している弁護士を分けるのは、弁護士資格ではなく、そうした新しいビジネスを作り出せる能力があるかどうかなのだ。

そこで求められるのは、マーケティング的な能力であり、投資家としてリスクをとれるかどうかであり、下で働く人々をリーダーとしてまとめる力があるかどうかだ。高学歴で難度の高い資格を持っていても、その市場には同じような人がたくさんいる。たくさんいる、ということならば、戦後すぐの、労働者をひと山いくらでトラックでかき集めたころとなんら違いはないのである。

「弁護士いる?弁護士。日給1万5000円で雇うよ」といった具合に。(本書148頁)

 

考えてみれば当たり前のことですが、(日本全体の人口が減少しているにもかかわらず)毎年約2000人が弁護士になる社会では資格そのものの希少性はなく、「弁護士」というカテゴリー(資格)のみで差別化できるはずがありません。また、弁護士の中でも、誰にでもできる分野(あえて具体的には挙げませんが)にいくら注力したところで、結局は価格競争にしかならないということは、今の弁護士業界を見ていても明らかなように思います。まさに、瀧本氏のいう「コモディティ化」そのものです。

一般に弁護士業界では、個々の案件に真摯に向き合い、自己研鑚を怠らずに努力し続ければ食いっぱぐれることはないという考え方が根強いように思います。私自身もそれはそれで真理だと思っていますが、今後はそれだけではダメなのだろうな、と。

 

そういった中で、今現在「たくさんいる弁護士」の一人にすぎない自分は、今後どうやって差別化を図り、生き残っていくか。個別分野のスキル(知識・経験)で差別化することが難しい(すぐにコモディティ化する)のであれば、ビジネスモデルや案件ソースによる差別化が一つの鍵になりうるのではないかと思うところですが、まだ「これだ!」という解は見つかっていません。まあ、見つかってもブログには書きませんけどね。笑

 

少し長くなりましたが、同業者の方もそうでない方も、現状に閉塞感を感じている方は、騙されたと思って本書を読まれてみてはいかがでしょうか。きっと大きな「武器」を授けてくれることでしょう。

水野祐弁護士の「情熱大陸」を視聴して

シティライツ法律事務所代表・水野祐弁護士の情熱大陸、昨晩しっかり視聴させていただきました。

 水野先生のご活躍は以前から存じあげていたつもりですが、普段のお仕事やそれに対する想いを映像としてあらためて目の当たりにすると…いやはや、「かっこいい!」の一言に尽きますね。ルックスもそうですが、何より生き方がかっこいい。

以下のように、グサグサと胸に刺さってくる言葉も多かったです。

  • 「いいものはいい、OKなものはOKだと、言えるような空気を作っていかないと。」
  • 「『法令遵守法令遵守』って言うけど、それって『思考停止』の言い換えじゃないの?」
  • 「法律の答えは言えますよ?これやっちゃダメって。でもこのカルチャーとかビジネスにおいて、もっと踏み込むべきところもあるんじゃないかって。そこが一番楽しいというか、面白みのあるところですね。」
  • 「世の中にあまりにも"良いもの"が沢山あるっている感覚があって、新しいものを生み出している人をサポートしたいっていう気持ちがありますね。それはなんでかっていうと、自分がそういうものを見たいから。で、沢山"良いもの"が出てくる、そういう世の中になってほしいと思うから。」

何より印象に残ったのが、相談者の作品を見ているとき、水野先生が目をキラキラさせて本当に楽しそうにしていたこと。その表情から、水野先生はアートやカルチャーが本当に好きで好きでしょうがなくて、自然な流れで今のお仕事のスタイルにたどり着いたのだということがよく伝わってきました。好きでやっているからこそ、まだお若いにもかかわらず、この分野のトップランナーになれたのだと。

 

最近薄々と感じているのは、専門分野に対する興味の根源が、特定の社会事象への興味や問題意識にある人は強いなということです。

私のような法学部→ロースクール→司法修習と"純粋培養"されてきた人は、ともすれば「会社法に興味があるから企業法務に」「刑事系が得意だから検察官に」「知的財産法に知財ローヤーに」という風に、法分野そのものに対する興味関心から自分の専門分野やキャリアを考えてしまいがちな面があるように思います。

しかし、そうではなくて、法分野以前の生の社会事象(水野先生でいうならアートやカルチャー)に対する「好き」「面白そう」からキャリアを考えられる人は成長が早いような気がします。まさに「好きこそものの上手なれ」で、何事もそれが好きで好きでしょうがなく、困難を困難と思わずにやっている人には敵わないのだと思います。

 

さしあたり自分にとっての「好き」「面白そう」はファイナンス・金融ですが、水野先生と同じくらいのレベルで没頭できているか、その分野の(法律家ではない)プレーヤーの人から真に信頼されるような仕事ができているか、常に自問しながら日々の業務に励んでいきたいと思いました。

 

はじめての国選弁護(その2) ※旧ブログ記事転載

(2015年9月に執筆した記事です。)

「その2」では、被告人段階の弁護活動について書いていきたいと思います。

3.起訴〜公判期日まで

被疑者が起訴されると、裁判所から連絡があり、起訴状を受領しに来るように言われます。

 

被疑者の起訴により、いったん国選弁護人の職務は終了することになります。通常は自動的に被疑者国選弁護に移行するので特別な手続は必要ないのですが、法テラスとの関係では、ここでいったん報告書を提出しなければなりません。起訴後14営業日までに報告書を提出しないと、報酬が支払われないことがあるので注意が必要です。

 

被疑者の身柄は、起訴後しばらく(10営業日程度?)は警察の留置場にありますが、その後拘置所に移送されます。ぼくの場合、職場からの移動時間は留置場でも拘置所でもそう変わらなかったので、移送のことをそれほど気にしていなかったのですが、これが大きな落とし穴でした。

留置場と拘置所では、接見可能時間が違うのです。
留置場の場合、夜は20時くらいまで、事前に電話を入れれば21時以降でも可能な場合があり、かなり柔軟に対応してくれたので、通常業務を片付けた後に接見に行くことが十分可能でした。一方、拘置所の面会受付時間は16時までとなっており、これ以降に接見をすることはできません。

普通の弁護士は、昼間は打合せや訴訟期日でバタバタしており、昼間に拘置所まで行くのは難しい場合が多いでしょう。拘置所に行く回数を少なく抑えたいのであれば、拘置所に移送される間に、ある程度被告人と公判の打合せをしておく必要があります。

 

起訴から2週間程度経過すると、検察庁から証拠閲覧が可能になったとの連絡が来ます。そこで、検察庁にて証拠閲覧をすることになるのですが、その場で全ての証拠を読んで覚えるのは不可能ですので、謄写をすることになります。謄写は、備え付けのコピー機(1枚10円)ですることもできますが、謄写人に頼むこともできます(1枚35円)。ぼくは、セルフ用のコピー機が混んでいたので、請求証拠の全部について謄写人による謄写をお願いしました。

 

被告人と打合せの上、弁護方針が固まったら、公訴事実の認否や証拠意見、弁護側の請求証拠等を裁判所と検察官に伝えなければなりません。これについて方法の指定はないようです。ぼくの場合は、裁判所からは事前に期日連絡票という書面をもらっていたので、それに返信する形で連絡し、検察官に対しては電話で伝えました。

 

4.公判手続

これについては、手続の点で特に目新しいことはなく、修習で体験したことと同様でした。もちろん修習の時とは異なり、自分が弁護人として法廷で弁護活動をしなければならないという意味でのプレッシャーはありましたが、思ったよりも緊張しなかったというのが本音です。

 

被告人質問中に一点、異議を出そうか迷う場面がありました。
検察官が、証拠請求していない物証について、被告人に質問し始めたのです。かなり執拗に質問し、被告人も困惑していたので、異議を出そうか迷ったのですが、「理由はなんだっけ?公訴事実と関連性なし?議論にわたる質問?」などと考えているうちに、検察官の質問が別のポイントに移ってしまいました。

上記の点は判決理由で全く触れられていなかったので、結果的には問題なかったのですが、やはり異議を出しておくべきだったと反省しています。「異議は思い立ったらすぐに出すべし。理由は後から考える。」弁護修習で師匠が言っていたことの意味が身にしみて理解できました。

 

公判終了後、被告人と打合せをしたい場合は、裁判所地下1階の仮監置室にて面会することができます。拘置所に戻ってしまうと会いに行くのが大変ですので、公判終了後なるべく早めに仮監置室に向かう必要があります。

 

5.判決後の手続

被告人に対して執行猶予判決が出た場合、本来であればその場で身柄が解放されるべきです。ただ、拘置所で勾留中の被告人については、拘置所に戻って荷物をまとめる等の手続が必要になるので、いったん裁判所地下1階の仮監置室に戻ることになります。したがって、仮監置室にて、判決内容の説明や控訴の意思の確認、今後の手続等について、被告人と打合せを行うことになります。

 

ぼくの担当事件の判決は執行猶予付判決ではありましたが、訴訟費用は被告人負担となっていました。国選刑事事件の場合、訴訟費用には国選弁護人の報酬も含まれるので、民事と違って結構な金額になります。

ぼくの被告人は職もなくお金もそれほど持っていなかったので、訴訟費用の免除申立てをすることになりました。この免除の申立ては判決確定後20日以外に行う必要があり(刑訴法500条)、確定後ですので弁護人がこれを行うことはでず、被告人本人にやってもらう必要があるという点に注意が必要です。

 

以上、必ずしも網羅的ではありませんが、国選刑事弁護について経験したことを備忘を兼ねて書いてみました。初めて刑事弁護を受任される方のお役に立てましたら幸いです。

はじめての国選弁護(その1) ※旧ブログ記事転載

(※2015年9月に執筆した記事です。)

7月に初めて受任した国選刑事事件が、第1審判決の確定をもって終了しました。

結果は、執行猶予付判決。同種前科がいくつかあり、ほぼ実刑確実と思われた事件だっただけに、執行猶予がとれて非常に嬉しかったです。

普段は企業法務ばかり扱っているので、次はいつ受任することになるかわかりませんが、備忘を兼ねて今回の事件で学んだことを軽くまとめておきたいと思います。

※東京での事件処理を前提にしていますのでご了承ください。

 

1.法テラスでの受任手続

東京で弁護士登録をすると、1年目の義務研修の一環として、国選刑事事件を1件受任しなければなりません(東弁のみ任意)。ぼくが今回受任したのも、この義務研修としての国選事件でした。

 

義務研修の場合、通常受任に優先して割り当てを受けることができ、割り当てられる事件も裁判員裁判対象事件や否認事件は除かれており、窃盗や覚せい剤事犯の自白事件(もちろん受任後否認に転じることもありえますが…)が多いようです。

 

受任の手続は、あらかじめ割り当てられた担当日に、弁護士会館3階の法テラス記録閲覧室にて行います。ここ↓

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義務研修の場合は、①13時に受付開始、②13時50分から記録閲覧・受任という流れになります。

①の受付は、②で受任する事件を選ぶ優先権(順番)を確保するために行われます。
すなわち、①で一番最初に受付を済ませた人は、②でその日の配点事件の中から、自分がやりたい事件を優先的に選べるわけです。とはいえ、②で閲覧できるのは被疑事実・被疑者の氏名・年齢・住所・認否・罪名といった勾留状に記載された事項に限られており、(当たり前ですが)事件の詳細は実際に受任しなければわからないので、優先権があるから「いい事件」を引当てられるとは限りません。

 

2.国選弁護人の選任手続〜起訴まで

法テラスでの手続が終わると、次は裁判所にて国選弁護人の選任を受ける必要があります。東京の場合、地裁(弁護士会館の裏側)1階の刑事第14部にて手続を行います。

 

その後、被疑者との初回接見を行います。

法テラスに配転されている国選対象事件は、基本的に当日勾留決定がなされた事件なので、被疑者は裁判官の勾留質問を受けた後、しばらくは裁判所地下1階の警視庁同行室に収容されています。したがって、通常は、国選弁護人の選任手続を済ませた後、すぐに同行室に向かって初回接見をすることになります。ここでの接見は時間が15分程度に限られているので、今後の手続の説明や権利告知、事実関係の聴取をスピーディに済ませる必要があります。

ちなみに、裁判所地下での接見については、いわゆる接見資料(接見に行きましたという証明書のようなもの)は発行してもらえません。ただ、裁判所地下での接見は、接見資料の添付がなくても報酬算定上「接見1回分」として認めてもらえるので心配はありません。

 

初回接見以降は、警察署の留置場にて接見を重ねることになります。

警察署での接見については、接見資料を作成しておかないと報酬算定上カウントしてもらえません。警察の方から「書かなくていいんですか?」とは言ってくれませんので、忘れないように注意しましょう。

 

なお、被疑者と接見をする中で、外部の人(家族・友人・職場の同僚・情状証人)と連絡をとる必要が出てくることがあります。被疑者がその人の電話番号やメールアドレスを覚えていればいいのですが、そうでない場合がほとんどでしょう。そのような場合、留置場の警察に事情を説明すると、押収されている携帯電話から連絡先を確認して教えてくれることがあります。この辺りは警察も柔軟に対応してくれるので、困ったら頼んでみるといいでしょう。

 

以上、まずは「その1」として被疑者段階での弁護活動について書いてみました。「その2」では被告人段階での弁護活動について書いていきたいと思います。

【書評】磯崎哲也著『起業のファイナンス』

久しぶりにまとまった時間が取れたので、GWは読書に没頭しています。本日読んだのはこちら。

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(リンクを貼って気付きましたが、増補改訂版が出ていたのですね…。今回私が読んだのは前から持っていた初版ですので、ご了承ください。増補改訂版も時間があれば読ませていただこうと思います。)

 

はじめて本書を読んだのは司法修習生の時でしたが、その後実務に出て、ファイナンス契約やジョイントベンチャー契約・株主間契約の実務をそれなりに経験した今あらためて読み返してみると、当時とは頭の入り方が全然違います。何度も頷きながら、楽しんで読めました。まさに「百聞は一見に如かず」です。

 

法的な部分の記述はやや薄いですが、(特にアーリーステージの)ベンチャー企業の資金調達の全体像が平易な語り口で解説されています。そして、本書で何より『刺さる』のが、著者・磯崎氏のベンチャー企業支援を通して日本経済を発展させたいというアツい想いです。

「日本のベンチャー投資のGDP比が他の世界各国と比較して非常に小さい」というのは事実ですが、現在、規制等によって、ベンチャー企業に資金が流れない構造になっているわけではありません。必要なのは「水道管」ではなく、水をほしがる需要、すなわち「ベンチャーをやってみようという(イケてる)ヤツら」のほうなのです。

そして、土から芽を出したばかりの双葉に水をジャブジャブ与えても根が腐ってしまうだけです。水道管の末端で必要な時に必要なだけ水を散布するインテリジェントな「スプリンクラー」(ベンチャーキャピタルやエンジェルなどの投資家やベンチャー実務の専門家等)が重要なのです。

この本は、その「スプリンクラー」の構造や、それがどうすればうまく機能するかについて書かせていただきました。(本書323頁)

 

法律事務所や弁護士も重要な「スプリンクラー」の一つです。

実際に、最近、ベンチャー法務を専門とする法律事務所や(特に若手の)弁護士さんが増えてきているように思います。それ自体に全くイチャモンをつける気はありませんし、ベンチャー起業をサポートしたいという法律家が出てきていることは間違いなく望ましい流れです。

ただ、よく考えてみると「ベンチャー法務」とは何ぞや?という気もします。個々のベンチャー企業の事業内容(eコマース、SNS、コンテンツ配信、Fintech etc.)に応じた専門性というのならまだ分かるのですが、「"ベンチャー起業"に固有の法分野やリーガル的な視点ってなんだろな?」と。

その答えの一つが、ファイナンス手法の違いなのだと思います。

シンプルにいうと、大企業(特に上場企業)はデットファイナンス中心になり、いわゆるベンチャー企業はエクイティファイナンス中心になるということですが、このあたりのことは今後このブログで詳しく解説していきたいと思っているところです。

 

なお、本書に興味を持たれた方は、続編である『起業のエクイティ・ファイナンスー経済革命のための株式と契約』も併せてお読みになることをオススメします。

…と言いつつ、私はまだざっとしか読めていないので、読了次第コメントしたいと思います。。

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