【平成25年司法試験再現答案】刑事系第1問 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

第1 乙の罪責

1.Aをトランクに閉じ込め、死亡させた行為

(1)乙は、トランク内にいたAの口をガムテープでふさいだ上、再度トランク内に閉じ込めているから、Aの可能的自由を奪ったものとして、監禁罪(刑法(以下、省略する。)220条後段)が成立する。

(2)では、その後Aは死亡しているが、監禁致死罪(221条)が成立するか。

 結果的加重犯の成立には、基本犯との加重結果との間に因果関係が認められることが必要であるが、加重結果につき予見可能性ないし過失があることまでは必要でない。刑法上の因果関係は、規範的考慮に基づく結果の行為への帰属可能性の問題であるから、実行行為の危険が結果へと現実化したものと評価できる場合に認められる。

 これを本件についてみると、手足を縛られた状態で身動きがとれないAの口をガムテープで塞ぎ、振動の伝わりやすいトランク内に閉じ込めて山中の悪路を走行すれば、車酔いにより嘔吐し、その吐しゃ物によって気管が塞がれて窒息死に至ることは、通常ありうる事態といえる。したがって、Aの死亡結果は、乙の監禁行為の危険が現実化したものとして因果関係が認められる。

 なお、乙は、Aをトランク内に閉じ込めたままB車もろともAを焼き殺す意思で上記監禁行為に及んでいるが、この時点で、監禁行為が上記殺人行為に「密接な行為」であるとして、殺人罪(199条)の実行の着手及び殺人の故意を認めることはできない。なぜなら、殺人行為の現場として予定されていた本件駐車場は、乙が監禁行為に及んだ時点から時間にして1時間、場所にして20キロメートルも離れており、監禁行為と殺人行為との間には時間的場所的接着性が認められないからである。

 以上により、乙には監禁致死罪(221条)が成立する。

2.B車に火をつけ炎上させた行為

(1)まず、B車は自動車であるから、108条及び109条の客体である「建造物」等には該当しない。そこで、110条の罪が成立しうる。

 そして、「自己の所有」(110条2項)とは、行為者本人の所有物のみならず、共犯者の所有物も含まれると解されるところ、Bは甲の所有物であり、後述するように本件放火行為については甲・乙に共同正犯関係(60条)が成立するから、B車は乙との関係でも「自己の所有」する物といえる。

(2)乙はB車に火をつけて炎上させているから、「放火」して「焼損」したといえる。

(3)問題は、「公共の危険」が生じたといえるかである。「公共の危険」とは、108条・109条1項の客体に対する延焼の危険だけではなく、不特定多数人の生命・身体・財産に対する危険も含まれる。

 これを本件についてみると、本件駐車場にはB車の他に、C所有の自動車・D所有の自動車・E所有の自動車が、B車の北側の半径10メートル以内に存在していたところ、これらは不特定多数人の財産といえる。そして、乙がB車に放火した当時、北西に向かって毎秒2メートルの風が吹いていたことを考慮すれば、B車が炎上したことによる炎がC車・D車・E車に燃え移って炎上させる危険が生じていたといえる。実際には、放火後偶然風向きが変わったことにより、C車の左側面のすすけさせたにすぎないが、上記の放火時点においてC車等への延焼の危険を生じていたと認められる以上、「公共の危険」が発生していたと認められる。

(4)乙は、他の車に火が燃え移ることもないだろうと考えており、上記「公共の危険」の発生を認識していないが、この点は、110条2項の罪の成否に影響を与えない。なぜなら、110条1項は「よって」という文言を用いていることから、本罪は結果的加重犯の性格を有すると解されるところ、前述のように結果的加重犯の成立には、加重結果につき予見可能性ないし過失は不要であって、同様に、「公共の危険」の発生の認識も不要であると考えられるからである。

(5)以上により、乙には自己所有建造物等以外放火罪(110条2項)が成立する。

3.Aの死体を燃やした行為

(1)乙がAの死体をB車もろとも燃やした行為は、「死体」の「損壊」にあたる(190条)。

(2)もっとも、乙はAがまだ生きていると認識していたため、死体損壊罪(190条)の故意が阻却されるのではないかが問題となる。

 そもそも、故意責任の本質は、規範に直面したにもかかわらず、あえて犯罪行為に及んだことに対する責任非難にあるところ、規範は構成要件の形で与えられている。したがって、行為者の認識した事実と現に発生した事実とが異なる構成要件間にまたがる場合であっても、両構成要件に実質的な重なり合いが認められる場合には、その限度規範に直面していたといえるから、38条2項の趣旨に従い、軽い罪の故意が認められる。

 しかし、そもそも、殺人罪の保護法益は人の生命であるところ、死体損壊罪の保護法益な死者への敬意・平穏であって、両者の保護法益は全く異なるから、構成要件の重なりあいは認められない。

 したがって、乙がA死亡の事実を認識していない以上、死体損壊罪の故意が認めらない。

(3)よって、乙に死体損壊罪は成立しない。

4.罪数

 以上により、乙には、監禁致死罪(221条)及び自己所有建造物等以外放火罪(110条2項)が成立し、両者は併合罪(45条前段)となる。なお、後者については、甲との共同正犯(60条)が成立する(後述)。

 

第2 甲の罪責

1.Aに睡眠薬を飲ませて昏睡状態に陥れた行為

(1)甲は、Aに睡眠薬を飲ませて眠らせた上(第1行為)、AをB車のトランク内に閉じ込め、本件駐車場で車ごと燃やして殺害する(第2行為)意図で、Aに睡眠薬を飲ませ、昏睡状態に陥らせている。そこで、第1行為の時点で殺人罪(199条)の実行行為及び故意が認められないか。

(2)実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性のある行為をいうところ、構成要件に該当する行為を行う前の段階であっても、それに「密接な行為」をしたと認められれば、上記の危険が生じたものと認められるから、その時点で実行行為を行ったものといえる。

(3)これを本件についてみると、本件睡眠薬を5錠一度に服用させても昏睡状態に陥るのみであり、それによって死亡する可能性はなく、第2行為に及ぶ前にAが昏睡状態から回復し、周囲の人に助けを求めるなどして第2行為が実行されない可能性が存在していた。現に、第1行為から1時間後にAは意識を取り戻して、乙に助けを求めている。したがって、第1行為に成功すれば第2行為を行うにつき何らの障害も存在しなかったとはいえない。また、第2行為は第1行為から時間にして約2時間の隔たりがあり、本件駐車場までは距離にして20キロメートルも離れていたから、第1行為と第2行為との間には、時間的場所的接着性が認められない。

(4)よって、第1行為は第2行為にとって「密接な行為」であるとはいえないから、第1行為の時点で殺人罪の実行の着手及び故意を認めることはできない。

2.乙の監禁致死罪についての教唆犯の成否

(1)暴力団の組長である甲は末端組員である乙に対し、B車を燃やすように指示しているが、トランク内にAを閉じ込めていること秘していた。ところが、乙はその後甲の意図に気づき、その上で自らAを焼き殺す意思で、前述の監禁致死行為に及んでいる。すなわち、甲は主観的には殺人罪の間接正犯の意思で、殺人罪の教唆犯(61条1項)の罪を実現したものといえる。そこで、甲はいかなる罪責を負うか。

(2)間接正犯の意思で教唆犯の結果を実現した場合であっても、両者は他人の行為を利用する点で行為態様に共通性があり、間接正犯の故意は教唆犯の故意を含んでいるものといえるから、38条2項の趣旨に従い、軽い教唆犯の罪が成立すると解する。

(3)また、正犯である乙に成立した犯罪は、殺人罪ではなく監禁致死罪であるが、両者には人の生命という保護法益の共通性があり、行為態様の共通性も認められるので、構成要件の実質的重なり合いが認められるから、甲の故意は阻却されない。

(4)以上により、甲には監禁致死罪の教唆犯が成立する(221条、61条1項)。

3.乙の自己所有建造物等以外放火罪についての共同正犯の成否

(1)甲は乙に対し、B車を燃やすように指示しているが、甲自身は自己所有建造物等以外放火罪(110条2項)の実行行為を分担していない。そこで、同罪の共謀共同正犯(60条)が成立しないか。

(2)共同正犯の処罰根拠は、相互利用補充関係によって一つの犯罪を実現する点に求められるところ、このような関係は、必ずしも全員が実行行為を分担しない場合にも認められる。したがって、①二人以上の者が特定の犯罪を行う旨の共謀をなし、②各人が結果に対する重大な寄与を行い、③各人に正犯意思が認められる場合には、共謀共同正犯が成立すると解する。

(3)甲は、B車を本件駐車場において燃やすように指示し、乙はこれを引き受けているから、本罪を行う旨の共謀があったといえる(①)。甲、実行行為を分担していないものの、放火のためのガソリンを購入してB車に積んだり、放火に適した場所として本件駐車場を提案したりしているから、結果に対する重大な寄与が認められる(②)。さらに、甲は暴力団の組長であって、末端組員である乙に対して絶対的に優位な立場にあり、本件放火によって利益を受けるのも甲であるから、甲には本罪の正犯意思が認められる(③)。

(4)よって、甲には、自己所有建造物等以外放火罪(110条2項)の共謀共同正犯が成立する(60条)。

4.罪数

 以上により、甲には、監禁致死罪の教唆犯(221条、61条1項)、及び自己所有建造物等以外放火罪の共同正犯(110条2項、60条)が成立し、両者は併合罪(45条前段)となる。

以上

 

【感想】
クロロホルム事件が想起されたが、早すぎた構成要件の実現は甲だけでなく乙との関係でも問題になることに途中で気づいた。なんとか上記論点については言及したものの、少々疑問の残る結論となってしまった。自己所有建造物等以外放火については、「公共の危険」の発生のあてはめが非常に難しく感じられた。問題文が短かったので、時間には割と余裕があった。 

【平成25年司法試験再現答案】民事系第3問 ※旧ブログ記事転載

再現率:70%くらい

第1 〔設問1〕について

1.確認の利益の意義

(1)確認の訴えの訴訟物は理論上無限定である上、確認判決に執行力がないため紛争解決手段として迂遠であり、必ずしも紛争の抜本的解決になりにくい。そこで、確認の訴えの訴訟要件として、確認の利益が必要とされる。

(2)確認の利益は、原告の権利又は法律的地位に危険・不安が現存し、かつ、それを除去する方法として原告被告間で一定の権利又は法律関係の存否の確認をすることが有効・適切である場合に認められる。この判断にあたっては、①確認対象の選択の適否、②即時確定の必要性、③確認訴訟の選択の適否が考慮要素となる。

2.訴訟Ⅰに確認の利益が認められるかの検討

(1)訴訟Ⅰは遺言の無効確認の訴えであるところ、問題文の昭和47年判例は、遺言が有効であるとすれば、そこから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合には、わざわざ請求の趣旨を現在の個別的法律関係に換言して表現せずとも審理対象に明確さを欠くことはないこと、遺言という基本的法律関係の効力の確認により、確認訴訟の紛争解決機能が果たされることを理由に、確認の利益を認めている。

(2)もっとも、上記判例の事案は、相続人が原告を含めて6人もいた事案であったところ、本件においては、Aの夫は既に亡くなっており相続人はE一人のみであって、この点で両者の事案は異なっている。すなわち、相続人がEしかいない本件においては、甲1に関する遺言①をめぐる利害関係人はEとBのみである。

 このような本件事案の下では、Eは、わざわざ過去の法律関係である遺言の無効確認の訴えを提起する必要はなく、むしろ端的に遺言の無効を前提として甲1の明渡請求や所有権移転登記抹消請求をする給付の訴を提起すれば足り、これにより、EB間の紛争解決は十分に図ることができる。

(3)したがって、訴訟Ⅰは、遺言という過去の法律関係の確認である点で①確認対象の選択が適切でないといえるから、確認の利益を欠き不適法であるというべきである。

 

第2 〔設問2〕について

 遺言執行者は、「遺言の執行に必要な一切の行為」をする権利義務を有しており、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産についての処分権限を失い、当該処分権限は遺言執行者に帰属する(民法1012条、1013条)。問題文の昭和51年判例は、このことを理由に遺言執行者の被告適格を認めたものと解されるが、同判例の事案は、未だ相続財産につき受遺者への所有権移転登記が完了していない段階におけるものであった。

 これに対し、遺言執行者Dが遺贈を原因とするCへの所有権移転登記手続を完了した段階である本件訴訟Ⅱにおいては、甲2の所有権は確定的にCが取得し(民法177条参照)、遺言執行の職務すなわち「遺言の執行に必要な一切の行為」(1012条)は既に終了したものといえるから、相続財産に対する処分権限はもはや遺言執行者には帰属していないというべきである。したがって、昭和51年判例の根拠は、本件訴訟Ⅱにはあてはまらない。

 よって、訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあるのであって、遺言執行者Dには被告適格が認められないから、訴訟Ⅱは不適法である。

 

第3 〔設問3〕について

1.小問(1)について

(1)相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は、①被相続人による当該財産の所有権取得原因、②被相続人の死亡(民法882条)、③相続を主張する者が被相続人の子であること(887条1項)、の3つである。

(2)本件に即していうと、①Fが土地乙をJから買い受けたこと、②平成15年4月1日、Fが死亡したこと、③GがFの子であること、の3つとなる。

2.小問(2)について

(1)前訴裁判所が、上記請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができるかどうかは、弁論主義第1テーゼとかかる問題である。

(2)弁論主義とは、訴訟資料の収集を当事者の権能および責任とする建前をいい、第1テーゼとは、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の資料として採用してはならないという原則をいう。もっとも、当事者のいずれかが主張した事実であれば、裁判所はその者に有利・不利を問わず、裁判の基礎とすることができる(主張共通の原則)。

 このような弁論主義第1テーゼが適用される「事実」とは、主要事実すなわち法律効果の発生・変更・消滅を定める法規の構成要件に該当する事実に限られ、間接事実や補助事実は含まないと解する。なぜなら、間接事実や補助事実は、主要事実の存否を推認させる点において証拠と同様の機能を果たすため、裁判官の自由心証(民事訴訟法(以下、省略する。)247条)に服すべき事実だからである。

(3)本件前訴では、小問(1)で検討した請求原因のうち、①は被告であるHの方から主張されているが、②及び③についてはGHのいずれからも主張がなされていない。したがって、前訴裁判所が②及び③の事実を判決の基礎とすることは、第1テーゼに反し、許されないとも思える。

(4)もっとも、②及び③の事実は明確に主張こそされていないものの、生の事実としては弁論に現れていたものであった。

 すなわち、「土地乙は、Gの父Fからその生前に贈与を受けた資金でGがJから買い受けたものである」とのGの主張のうち、「Gの父Fから」との部分はGがFの子であること(③)を意味するものであるし、「その生前に」との部分は現在はFが死亡していること(②)を意味するものであって、生の事実としては弁論に顕出されていたといえるのである。

 そして、弁論主義の機能として不意打ちの防止があること、弁論主義第1テーゼは裁判所の行為規範としてだけでなく結果規範としての性質を有する(312条2項6号)ことに鑑みると、本件前訴のように事実そのものが弁論自体に現れている場合には、適切に釈明権が行使された上でなされる限り、これを判決の基礎としたとしても少なくとも当事者にとって不意打ちとはならないといえるから、結果規範としての観点からは弁論主義第1テーゼに反しないというべきである。

(5)よって、前訴裁判所は、適切に釈明権を行使したならば、当事者から主張されていない②及び③の事実を、判決の基礎にすることができると考える。

 

第4 〔設問4〕について

1.問題の所在

(1)確定判決における訴訟物の存否の判断には既判力が生じる(114条1項)。したがって、本件前訴の請求棄却判決により、Gに土地乙の所有権がないことにつき既判力が生じている。

 そして、本件前訴の訴訟物がGの土地乙に対する所有権であるのに対し、後訴の訴訟物はGのHに対する土地乙の所有権一部移転登記請求権であって、両者は先決関係にあるから、Gに土地乙の所有権がないとの前訴既判力は後訴にも及ぶ。その結果、前訴の事実審口頭弁論終結(以下、「基準時」という。民事執行法35条2項参照。)後の新事由がない限り、後訴は請求棄却となるはずである(既判力の積極的効力)。

(2)もっとも、前訴判決の理由は、土地乙をJから買い受けたのはGではなくFであるとの心証を抱いたためであり、GがFからの相続によって土地乙の所有権の一部を取得したことまでを否定するものではなかった。そして、前訴判決は、HがFから土地乙の贈与を受けた事実も認められないとの理由から、反訴であるHのGに対する土地乙の明渡請求をも棄却している。

 すなわち、前訴裁判所は、FがJから土地乙の買い受けたことを認定するのみで、それ以降の土地乙の所有権の帰趨については何ら認定していないのである。

(3)とすれば、前訴判決により、基準時においてGが土地乙の所有権を有していないことについて既判力が生じるとしても、その結論に至るためにあえて認定する必要がなかった事実(すなわちFがJから土地乙を買い受けた後の所有権の帰すうに関する事実)については、後訴においてこれを主張したとしても信義則上遮断されないと解する余地があるのではないか(遮断効の縮小)。本問で問題となるのはこの点である。

2.信義則を根拠として既判力の遮断効が縮小されるとの主張の検討

(1)問題文の平成10年判決は、金銭債権の明示的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情のない限り、信義則に反し許されないとしている。

 その理由は、一個の金銭債権における一部請求の当否を判断するためにはおのずから債権全部について審理判断することが必要となるところ、前訴の請求棄却判決は、残部として請求しうる部分が存在しないとの判断を示すものに他ならない。にもかかわらず残部請求をすることは実質的には紛争のむし返しであって、信義則に反するから、という点を挙げている。

(2)とすれば、これとは逆に、前訴請求の当否を判断するにあたって審理判断する必要のなかった事実については、請求棄却判決はその事実がないとの判断を示したものとまではいえないし、審理判断されていない以上、後訴でこれを主張したとしても実質的な紛争の蒸し返しともいえないから、信義則上、後訴において当該事実を主張することは前訴判決の既判力に遮断されないと解すべきである。

(3)これを本件についてみると、前述のように、前訴において請求棄却の結論を導くためには、土地乙をJから買い受けたのはGではなくFであるとの事実を認定できれば足りたのであり、その後GがFから相続によって土地乙の所有権の一部を取得したか否かについては認定する必要がなかった事実である。他方、Hの反訴も棄却されているのであるから、HがF以降の土地乙の帰趨について、解決済みであるとの信頼を生じる理由もなかったといえる。

(4)したがって、Gが後訴において、Fから相続によって土地乙の所有権の一部を取得したと主張することは、信義則上、前訴の既判力によって遮断されないというべきである。

以上 

 

【感想】 

設問1と設問2は配点との関係から簡潔に処理し、設問3・設問4をじっくり論じようという方針を立てた。設問3は、判例・通説の立場によって導かれる結論から、もう一歩踏み込んだ論述をしたつもりであるが、功を奏するかどうかはわからない。設問4は、今まで考えたことはなかったものの面白い問題だと思った。時間がなく思うような論述はできなかったが、一応の考え方の方向性は示すことができたのではないかと思う。

【平成25年司法試験再現答案】民事系第2問 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

第1 〔設問1〕

1.EのFに対する甲社株式譲渡の有効性

(1)甲社定款5条によれば、甲社株式はその全てについて譲渡制限が付されており(会社法(以下、省略する。)107条1項1号)、その譲渡には取締役会の承認が必要とされている。

 本件では、EはFに対し、甲社株式50株を代金1億円で売る売買契約を締結している。そして、Eから甲社に対して、株式譲渡承認請求書が提出されており(136条)、かつ、甲社から何の連絡もなく2週間が経過しているから、145条1号により甲社の譲渡承認が擬制されるとも思える。

(2)しかし、甲社が何の連絡もしなかったのは、Aが他の取締役に対して、Eから譲渡承認請求があった旨を伝えなかったためである。すなわち、Eの譲渡承認請求は、承認機関である甲社の取締役会に認識されていなかった。

 そもそも、145条1号の趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主として参加するのを防止するという会社の利益と株式取引の安全との調和を図る点にあるところ、後者が前者に優越したといえるのは、譲渡承認請求があった旨を承認期間が認識したにもかかわらず、なお2週間にわたって通知を怠った場合に限られる。

 とすれば、Eの譲渡承認請求は、承認機関である甲社の取締役会に認識されていない本件では、

そもそも「会社に対し」(136条)譲渡承認請求がなされたとはいえず、145条1号による承認擬制の前提を欠くというべきである。

(3)よって、本件では145条1号の適用はなく、EのFに対する甲社株式の譲渡は甲社に対する関係では効力を生じないと解すべきである。

2.平成25年総会においてFを株主として取り扱うことの当否

(1)前述のように、定款による株式譲渡制限の趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主として会社に参加することを阻止する点にあるから、譲渡承認のない株式譲渡は会社との関係では無効である。したがって、会社は譲受人を株主として取扱うことは原則として許されない。

 もっとも、譲渡につき株主全員の同意がある場合には、会社の利益を害さず、譲渡承認に代替する機能があるといえるから、会社が譲受人を株主として取り扱うことも許されると解すべきである。

(2)これを本件についてみると、平成25年総会においては、株主であるA・B・C・D全員が出席しており、Fの議決権行使に対して何らの異議も述べていないから、株主全員の黙示的な同意があったともいえそうである。

 しかし、FはDを代理人として議決権を行使しており(310条1項)、総会の場には現れていない。すなわち、Fが本件株式譲渡を受け、平成25年総会において株主として議決権行使しようとしていることはDとAを除く株主には認識されていなかったのであるから、そもそも黙示の同意を擬制すべき前提を欠いているといえる。

(3)よって、Fの議決権行使に対し株主全員の同意があったものと解することはできないから、甲社が平成25年総会においてFを株主として取り扱ったことは違法である。

 

第2 〔設問2〕

1.小問(1)について

 Bは、以下の3点を決議取消事由として主張し、本件報酬決議の取消の訴え(831条1項柱書)を提起することが考えられる。以下、それぞれの決議取消事由につき検討する。

(1)本件報酬決議が招集通知に記載されていない議案に関する決議であった点

 甲社は取締役会設置会社であるから(定款8条1項)、309条5項本文が適用されるところ、本件報酬議案は、招集通知に記載されていない事項であった。

 Aは、平成25年総会の席上で、本件報酬議案を提案しているが、これは総会期日の8週間前までの請求を必要とする株主の議題提出権(303条1項)に該当するものではない。また、本件報酬議案は、目的事項である第1号議案・第2号議案のいずれとも関連しないものであるから、株主の議案提出権(304条)にも該当するものではない。

 したがって、本件報酬決議が招集通知に記載されていない議案に関するものであったことは、309条5項本文に反するものとして、決議方法の法令違反に該当する(831条1項1号)。そして、309条5項本文の趣旨が、事前に目的事項を通知することによって株主に熟慮する機会を与える点にあることからすれば、上記法令違反は重大であり、裁量棄却(831条2項)は許されないというべきである。

(2)Bによる120個の議決権行使を無効として取り扱った点

 Aは、Qが有していた120株の甲社株式につき、権利行使者の指定にAの同意がないことを理由に、Bの120個の議決権行使を無効として取り扱っている。

 しかし、共有株式の権利行使者の指定(106条文本文)は、共有物の管理行為にあたるものとして持分の過半数で決すべきところ(民法264条、252条本文)、本件のBを権利行使者とする決定については、共有持分の等しいABCのうち、BCが合意をしているのであるから、上記権利行使者の指定は有効になされていたというべきである。

 したがって、上記Aの取扱いは106条本文に反するものとして、決議方法の法令違反に該当する(831条1項1号)。そして、上記議決権行使が有効であれば、反対票が520票となって本件報酬決議は否決されていたといえるから、決議に影響を及ぼすことが明らかな法令違反であり、裁量棄却(831条2項)は許されない。

(3)後に2億円の取締役報酬を得ることになるAが議決権行使をしていた点

 831条1項3号にいう「特別の利害関係を有する者」とは、当該決議がなされることによって他の株主が得られないような利益を得る株主をいう。

 これを本件のAについてみると、確かに、Aは本件報酬決議を経た上で、その後の取締役会でAの報酬を2億円に引き上げることを企図しており、またそのように実行している。しかし、本件報酬決議そのものは、取締役全員の報酬の総額を年3億円に引き上げるというものであって、これ自体は他の取締役であるBC等にとっても利益となりうるものであった。

 したがって、本件報酬決議の段階では、Aが他の株主が得られないような利益を得る危険は未だ現実化していたとはいえないから、Aは「特別の利害関係を有する者」にあたらないというべきである。

 よって、本件報酬決議に831条1項3号の取消事由は認められない。

2,小問(2)について

(1)361条1項は取締役の報酬につき株主総会の決議が必要としている。したがって、報酬決議が取り消されれば、その遡及効(839条反対解釈)により、当該報酬の支払いは「法律上の原因」(民法703条)を失うことになる。

(2)よって、小問(1)で述べた事由により本件報酬決議が取り消されれば、甲社はA・D・Gに対し、不当利得として支払済み報酬の全部の返還を請求することができる(民法703条704条)。

第3 〔設問3〕

1.①11の時点で採ることができる手段

(1)Bとしては、本件募集株式発行の差止請求をすることが考えられる(210条)。

(2)この点、本件募集株式の発行は、株主総会の決議を経ることなくなされているが、本件のような株主割当の場合には、株主総会決議は不要である(202条5項)。したがって、株主総会決議がないことを法令違反として、本件募集株式発行の差止め(210条1号)を求めることはできない。

(3)210条2号の「著しく不公正な方法」とは、不当目的を達成する手段、すなわち現経営者の支配権を維持することを主要な目的として株式発行を用いる場合をいう(主要目的ルール)。

 本件募集株式の発行は、Aが甲社における自己の支配権を確立する目的で行ったものであるから、「著しく不公正な方法」に該当することは明らかである。

 したがって、Bは本件募集株式発行の差止めを請求することができる(210条2号)。

2.②12の時点で採ることができる手段

(1)Bとしては、本件募集株式発行の無効の訴えを提起することが考えられる(828条1項)。

(2)この点、新株発行の無効原因について明文の規定はないが、株式取引の安全を図る必要性が高いことから、会社や株主の救済が著しく困難といえるような重大な瑕疵に限定すべきである。

(3)前述のとおり、本件募集株式発行については「著しく不公正な方法」の瑕疵があるが、このような瑕疵は、一般論としては無効原因たりえない。

 なぜなら、「著しく不公正な方法」による発行の瑕疵は、本来差止請求によって救済されるべきものであって(201条2号)、発行後は取引の安全を優先すべきだからである。

(4)もっとも、甲社は発行株式全部につき譲渡制限を付しているところ(定款5条)、このような非公開会社(2条5号反対解釈)における新株無償割当てについては、「著しく不公正な方法」の瑕疵も無効原因になると解すべきである。

 なぜなら、①通知・公告制度(201条3項・4項)がない非公開会社の新株発行においては、株主総会が唯一の情報公開の場であるところ、前述のように新株無償割当てについてはそもそも株主総会決議が不要であって(202条5項)、株主は新株発行に関する情報を入手することができず、差止請求(210条)による事前救済を期待することができない反面、②非公開会社においては株式の流通性が乏しく、取引安全の要請が小さいといえるからである。

(5)したがって、Bは、本件募集株式発行が「著しく不公正な方法」によるものであったことを無効原因として、無効の訴えを提起することができる(828条1項・2項)。

以上

 

【感想】

全体を通じて論ずべきことが多いと思ったが、答案の筋は短時間で立てることができた。基本的な判例の考えを応用することで対応できる問題だと感じた。設問3については、甲社が非公開会社である点をどのように考慮するかがポイントだと思い、最判平成24.4.24を念頭において論述した。内容・分量ともに自分としては満足のできる出来だった。

【平成25年司法試験再現答案】民事系第1問 ※旧ブログ記事転載

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第1 〔設問1〕について

1.Aのなすべき主張

(1)AのCに対する保証債務履行請求の要件は、①主債務の発生原因事実が存在すること、②AC間で保証契約が締結されたこと(民法(以下、省略する。)446条1項)、③保証契約が書面によってなされたこと(446条2項)、④保証契約に連帯の約定があること(454条)、の4つである。

(2)そこで、Aとしては、まず①については、平成22年6月11日、AB間で甲土地をAがBに代金6000万円で売る旨の売買契約(555条)が締結されたことを主張すべきである。

 そして、②④については、当初BがCを無権代理することによってなされていたところ、平成22年6月15日、CがAに対し、電話で連帯保証人になることに異存はない旨告げたことにより、追認があったといえるから、Bによってなされた②④は遡及的に有効になること(116条本文)を主張すべきである。

2.Aの主張の問題点とその当否

(1)Aの保証債務履行請求に対し、Cは、AC間の連帯保証契約は書面でされておらず無効であると主張している。そこで、本問で問題となるのは③である。

 すなわち、(ⅰ)③の書面作成についても代理人によってすることができるのか、(ⅱ)代理人による書面作成ができるとして、平成22年6月15日にCがAに対してした承諾には、連帯保証契約の締結の追認のみならず、Bによる書面作成についての追認も含む趣旨であるといえるかが問題となる。

(2)まず、(ⅰ)③の書面作成を代理人によってすることができるかについてであるが、これは認められると解する。

 なぜなら、446条2項の趣旨は主債務及びそれに従たる全ての債務に及ぶ(447条1項)という保証債務の重大性に鑑み、保証人の意思を明確にして紛争を未然に防止するという点にあるところ、この趣旨は、代理人に正当な代理権が与えられている限り、代理人による書面作成によっても達成することができるからである。また、③は、書面による保証契約の合意であるという点で、代理の対象たる「意思表示」(99条1項)にも該当するからである。

(3)次に、(ⅱ)の点について検討する。

 確かに、CはAに対し、連帯保証人になることに異存はない旨告げたのみであって、書面作成の点については明示的に言及していない。

 しかし、平成22年6月15日にBがCに会って、BがCを代理して本件連帯保証契約を締結したこと及びCの追認を得る必要があることを説明した際には、Bが作成した本件連帯保証契約の書面を示していたのであり、これについてCは何ら異議を述べることなく本件連帯保証契約の締結を承認しているのであるから、CがAに対してなした連帯保証人になることに異存はない旨の意思表示には、上記書面作成についての追認をも含む趣旨であったと解するのが、当事者の合理的意思解釈といえる。

 また、このように解したとしても、連帯保証人になることに異存はない旨の意思表示はC自身によって明確になされているから、446条2項の趣旨に反するものでもない。

(4)よって、平成22年6月15日にCがAに対してした追認により、③の要件も充足される。

 以上により、AのCに対する、本件連帯保証契約に基づく保証債務履行請求は認められる。

 

第2 〔設問2〕について

1.Bの主張

(1)Bとしては、Fに対し、債務不履行に基づく100万円の損害賠償請求権(415条前段)を主張すべきである。

(2)債務不履行に基づく損害賠償請求(415条前段)の要件は、①債務者に債務不履行があること、②債務不履行が債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと、③債権者に損害が生じていること、④債務不履行と損害との間に因果関係が認められることである。

(3)BはFとの間で、平成23年10月1日、丙建物の1階部分につき、賃料月額40万円にてFに賃貸する旨の賃貸借契約(601条)を締結している(本件賃貸借契約①)。

 したがって、賃借人であるFは、本件賃貸借契約①に基づく義務として、用法に従って目的物を使用収益し、目的物を適切に保管する義務を負っているものと解されるから(616条、594条1項)、FがHに内装工事を依頼し、Hが丙建物の一部に亀裂を生じさせたことは、上記保管義務に不履行といえる(①)。

(4)債務者の責めに帰すべき事由とは、債務者自身の故意・過失または信義則上これと同視しうべき事由をいう。丙建物に亀裂を生じたことはHの過失によるものであるが、HはFから丙建物の内装工事の発注を受けて工事を行った者であるから、Hは上記保管義務との関係では、Fの履行補助者であったといえる。そして、履行補助者の故意・過失は信義則上債務者自身の故意・過失と同視すべきものである。よって、上記債務不履行につきHの帰責事由が認められる(②)。

(5)Bは亀裂の修繕費用として100万円を支出した点で損害を被っているところ(③)、この支出額は修繕工事の対価として適正なものであるから、上記債務不履行との間に相当因果関係が認められる損害(416条1項)といえる(④)。

(6)以上より、BはFに対し、債務不履行に基づく100万円の損害賠償請請求を主張する。

2.Fの主張

(1)本件賃貸借契約①においては、丙建物の1階部分をコーヒーショップとして使用することが明示されていた。このような目的のためには内装工事が当然に必要となるから、その内装工事によって生じた建物の修繕費用は、むしろ賃貸人の修繕義務(606条1項)の一内容としてBが負担すべきものである。したがって、Fに目的物保管義務の債務不履行は認められない(①不充足)。

(2)仮に、Fに目的物保管義務の不履行があるとしても、BはHに内装工事を行わせることについて承諾しているから、Hの過失についてのリスクはBが負うべきであって、Fに帰責事由は認められない(②不充足)。

3.それぞれの主張の当否

(1)確かに、本件賃貸借契約①においては、丙建物の内装工事が当然に予定されていたものであるが、それは賃借人であるFが内装工事を行うことを賃貸人Bが承諾するということにとどまり、内装工事によって生じた建物の瑕疵についてまで、Bが修繕義務(606条1項)を負うということまで意味するものとはいえない。

 したがって、この点に関するFの反論は妥当でなく、Fが行った内装工事によって丙建物に亀裂が生じている以上、Fには目的物の保管義務(616条、594条1項)の債務不履行があったというべきである。

(2)Bは、FがHに内装工事を行わせることについて承諾をしているが、これは本件賃貸借契約①の当事者でないHが内装工事を行うことそのもの、あるいはHが内装工事のために丙建物に出入りすることに対する承諾であって、Hの過失による目的物の損傷についてFを免責する趣旨を含むものとまではいえない。

 したがって、この点に関するFの反論も妥当ではなく、HがFの目的物保管義務との関係で履行補助者に該当する以上、Hの過失はFの帰責事由と同視される。

(3)以上により、Bの主張は正当といえるから、BはFに対し、債務不履行に基づく100万円の損害賠償請請求をすることができる。

 

第3 〔設問3〕について

1.GのBに対する30万円の支配請求権の法的構成について

(1)BはGとの間において、平成23年11月1日、丙建物の2階部分について、学習塾として使用することを目的とし、賃料月額30万円にてGに賃貸する契約(本件賃貸借契約②)を締結している(601条)。本件賃貸借契約②に基づき、賃貸人であるBは目的物の修繕義務を負うから(606条1項)、平成24年9月初旬に生じた大型台風による丙建物の損傷については、Bが修繕義務を負うものであった。したがって、Bが直ちにこれをしなかったことは債務不履行といえる。

(2)台風及び丙建物の損傷の発生についてBに帰責事由がないとしても、上記修繕義務の不履行については、Bが所在不明でGからの連絡を受領しなかった点で過失が認められる。

(3)Gは、Bが所在不明で直ちに丙建物を修繕しなかったことからやむなくEに修繕を依頼し、適正対価30万円を支払っているから、損害の発生及び上記債務不履行との因果関係が認められる。

(4)以上により、GはBに対し、賃貸人の修繕義務の債務不履行に基づく30万円の損害賠償請求権を有している(415条前段)。

2.Dの反論を踏まえた上で、Gがなすべき主張

(1)Dが反論するように、判例は、抵当権者が物上代位権行使によって賃料債権を差し押さえた後は、賃借人は、抵当権設定登記後に賃借人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないとしている。

 したがって、Gが上記30万円の損害賠償請求権を自働債権として、Dに対し対当額の賃料債権との相殺を主張するとすれば、これは認められないことになる。

(2)しかし、そもそも賃料は目的物の使用収益の対価として発生するものであって(601条参照)、賃貸人の修繕義務は、目的物が使用収益可能な状態を維持するための義務である。とすれば、賃貸人の修繕義務が履行されない間は、賃借人の賃料支払義務も生じないと解すべきである。

 したがって、Bが修繕義務の履行を怠った平成24年9月初旬以降すなわち10月分以降の賃料支払債務はそもそも発生していないというべきである、このように解すれば、相殺以前の問題として受働債権がそもそも存在しないというのであるから、上記判例に抵触することはない。

(3)以上により、Gが相殺を主張するまでもなく、Dが差し押さえた平成24年10月分以降の賃料はそもそも発生していないのであるから、Gは90万円全額の支配を拒むことができる。

以上

 

【感想】
設問1は例年通り、要件事実っぽい問題だと思ったが、何を書けばいいのか少し迷った。設問2の配点が高い理由が最後までわからなかったが、できるだけ多くの事実を拾い、要件を一つ一つ検討するよう心がけた。設問3は、どう反論すればよいかわからなかったが、条文・趣旨に遡って自分なりの考えを論述してみた。

【平成25年司法試験再現答案】公法系第2問 ※旧ブログ記事転載

再現率:85%くらい

〔設問1〕

第1 「処分」の定義

 取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

 以下では、C県の主張の意味を明らかにした上で、その当否を吟味しつつ、本件認可の法的効果を検討することにより、本件認可の処分性を論じることとする。

 

第2 土地区画整理組合の法的性格に関するC県の主張と検討

1.C県の主張

(1)C県は、本件組合は、行政主体としての法的性格を与えられていると主張して、本件認可の処分性を否定している。

 すなわち、土地区画整理法(以下、「法」という。)3条4項は、都道府県又は市町村が、土地区画整理事業を施行することができると規定しているところ、同2項は、土地区画整理組合にも、土地区画整理事業を施行することができる地位を与えているから、法は、土地区画整理組合を都道府県等の行政主体と同視しているとみることができる。とすれば、本件認可は、行政主体であるC県が、同じく行政主体である本件組合に対して行ったものであって、行政内部の行為にすぎず、「直接国民」に対して行った行為ではないことになる。したがって、本件認可は「処分」に該当しない。

 C県の上記主張は、このように理解することができる。

(2)また、C県は、下級行政機関である本件組合に対する本件認可は、処分に該当しないとも主張している。

 これは、本件組合が都道府県等と同様に土地区画整理事業を施行することができる地位を有していることを前提とした上で(法3条2項)、都道府県知事の組合に対する勧告等の権限(法123条1項)や監督権限(125条1項)が認められていることを根拠に、本件組合をC県の下級行政機関であると捉え、したがって、本件認可は行政内部の行為にすぎず、やはり「直接国民」に対して行った行為とはいえないと主張するものである。

2.C県の主張の当否及び本件認可の法的効果

(1)まず、本件組合が行政主体としての法的性格を与えられているとのC県の主張は、妥当でない。なぜなら、本件組合が土地区画整理事業を施行することができる地位を与えられている(法3条2項)とはいえ、都道府県知事の組合に対する勧告等の権限(法123条1項)及び監督権限(125条1項)が定められていることから、法は、組合を都道府県等とは独立した行政主体としての地位を与える趣旨とまではいえないからである。

(2)次に、本件組合が下級行政機関たる法的性格を有するというC県の主張は、上記法3条2項及び123条1項・125条1項から、この限りでは正しいといえるが、だからといって本件認可の処分性が直ちに否定されるわけではない。

 本件認可の直接の名あて人が本件組合であるとしても、その本件組合は、Aを含む施行地区内の所有権者又は借地権者の全員から構成されているものであって、本件認可によってAら組合員は新設された賦課金の支払義務が生じることになる(本件定款6条2号、法40条1項)。そして、この賦課金の支払義務は、滞納処分という強制手段(法41条)によって担保された具体的義務であるといえる。

 したがって、本件認可によって、組合の構成員である個々の私人に対して、賦課金の支払義務という個別具体的な法効果が生じるといえるから、本件認可には、「直接国民」に対する具体的法効果を有するものといえる。

 

第3 本件認可の法的性格に関するC県の主張と検討

1.C県の主張

 C県は、本件認可は条例制定行為の法的性格を有するから、条例制定行為に処分性が認められないのと同様に、本件認可も「処分」に該当しないと主張する。

2.C県の主張の当否及び条例制定行為の処分性

(1)条例制定行為は、一般的抽象的法規範を定立する行為であって、「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する」とはいえないことから、類型的に処分性が否定される。

 もっとも、他の処分を待つことなく、特定個人の具体的権利義務や法的利益に直接影響を与える場合には、条例制定行為であっても例外的に処分性が肯定される。

(2)この点、都道府県又は市町村が土地区画整理事業を行う際には、定款ではなく施行規程及び事業計画を条例で定めることとされている(法52条1項、53条1項)。しかし、前述のように、都道府県知事の組合に対する勧告権限(123条1項)及び監督権限(125条1項)が定められていること、組合自身は滞納処分をすることはできず、市町村長に対する申請が必要とされていること(41条1項、3項)などから、法が都道府県又は市町村と組合を区別していることが明らかであるから、本件認可を都道府県又は市町村による条例制定行為と同視することはできない。

(3)仮に、本件認可を条例制定行為と同視できるとしても、前述のように、本件認可は他の処分を待つことなく、組合の構成員である個々の私人に対して、直接に賦課金の支払義務という個別具体的な法効果を生じるものであるから、例外的に処分性が認められる場合に該当する。

 

第4 結論

 以上により、本件認可は、組合の構成員である個々の私人に対して、直接に賦課金の支払義務という個別具体的な法効果を生じるという点で、「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」といえるから、取消訴訟の対象となる「処分」に該当する。 

 

〔設問2〕

第1 本件認可につき、Aが主張すべき違法事由

 Aが主張すべき本件認可を違法とする法律論としては、①本件組合の事業施行能力に関する違法事由、②本件定款変更決議における書面議決書の取扱いに関する違法事由、③賦課金の算定方法に関する違法事由の3つがありうる。そこで、以下ではこの3つの主張につき、関係する法令の規定を挙げながら検討する。

 

第2 ①本件組合の事業施行能力に関する違法事由

 本件事業は、地価が高騰しつつあったバブル経済期に計画され、保留地を高値で売却できることが資金計画の前提とされてきたところ、バブルの崩壊によりこの前提が大きく崩れることになった。にもかかわらず、本件組合は楽観的な見通しのもとに資金計画の変更を繰り返してきたのであり、今回の変更は7回目にあたる。このような度重なる資金計画の変更は、本件組合の事業遂行能力に大きな疑問を抱かせるものであって、本件事業は実質的には既に破綻しているものといえる。

 したがって、本件組合は、21条1項4号の「土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基盤及びこれを遂行するために必要なその他の能力が十分でない」場合に該当する。そして、21条1項は、定款変更認可の場合にも準用されているから(39条2項)、21条1項4号の事由に該当するにもかかわらずなされた本件認可(39条1項)は違法である。

 

第3 ②本件定款変更決議における書面議決書の取扱いに関する違法事由

 費用分担に関する定款変更決議は特別決議事項であって、組合員の3分の2以上が出席し、出席組合員の人数及び地積における3分の2以上の賛成が必要であるところ、本件決議は形式的にはこれを充足している。

 しかし、書面による議決権行使の書類については、本件組合の理事Dが組合人により署名捺印された白紙のままの書面議決書500通を受け取り、後で議案に賛成の記載を自ら施したものであった。このようなDの措置は書面による議決権行使をした組合員の意向を無視するものであって違法であるから、書面による議決権行使によってなされた賛成票は無効であると解すべきである。これにより、本件議決は、人数ベースでも地積ベースでも議決要件を充足しなくなるから、本件認可は組合の特別決議を得ることなくなされたものといえる。

 よって、本件認可手続には、31条1号に違反しており定款決定手続の法令違反(21条1項2号)があるから、これを看過してなされた本件認可は違法である(39条2項)。

 

第4 ③賦課金の算定方法に関する違法事由

 法40条2項は、賦課金の額は、組合員が有する宅地又は借地の位置、地積等を考慮して公平に定めなければならないとする。

 これを本件についてみると、本件組合の組合員一人当たりの平均地積は約482平方メートルであるが、賦課金が免除される組合員は930名であり、これは総組合員の80パーセントを占めている。また、賦課金が免除される宅地の総地積は約23平方メートルで、これは施行地区内の宅地の総地積の約41パーセントを占めている。すなわち、賦課金の支払義務を負う組合員の総地積は59パーセントにすぎないにもかかわらず、総組合員の20パーセントの者だけで15億円もの賦課金を負担することになるから、賦課金の額と所有地積との間に正比例の関係が成立せず、本件賦課金の算定方法は一部の者に多大な経済的負担を強いる点で著しく不公平といえる。

 よって、本件賦課金の算定方法には40条2項に違反するものとして、定款内容の法令違反となるから(21条1項2号)、これを看過してなされた本件認可は違法である(39条2項)。

 

第5 結論

 以上の3点で本件認可には違法事由が認められるから、本件認可は取り消されるべきである。

以上

 

【感想】 

設問1・設問2ともに、土地区画整理法を現場思考により解釈させる問題だと思った。問題文・誘導分から「土地区画整理法の条文を詳細に摘示せよ」とのメッセージがひしひしと伝わって来たので、とにかく条文に即して論じるように心がけた。設問2は、違法とする法律論と適法とする法律論を両方検討せよとのことであったが、時間との関係から前者に絞って論じた。

【平成25年司法試験再現答案】公法系第1問 ※旧ブログ記事転載

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〔設問1〕

第1 本件デモ行進不許可処分に対する憲法上の主張

1.法令違憲の主張

(1)まず、Aは、B県集団運動に関する条例(以下、「本件デモ条例」という。)1条及び3条1項4号が、Aらのデモ行進を行う自由を侵害しており、憲法21条1項に違反するとの主張をする。

(2)Aらが、B市の幹線道路において「格差の是正」訴えるデモ行進を行う自由は、憲法21条1項の集会の自由の一内容として保障される。

 なぜなら、上記デモ行進は、複数の者が一定の目的のために一定の場所に集まって行うコミュニケーション活動である点で「集会」に該当するだけでなく、「格差の是正」に関する意見を表明することで個人の人格的発展に寄与し(自己実現の価値)、民主政治への参加と寄与を可能にする(自己統治の価値)からである。

(3)本件デモ条例1条は、道路等の公共の場所におけるデモ行進につき許可を受けなければならないとしている点で、上記デモ行進の自由を制約している。

(4)このような許可制は、一般的には事前かつ強度の制約として原則として憲法21条1項に違反するものであるが、本件デモ条例は不許可事由に該当しない限り許可しなければならないとしており(3条)、実質的には届出制と同視できるから、許可制を定めること自体は憲法21条1項に違反するものではない。もっとも、精神的自由の一つである集会の自由の重要性と、事前規制たる許可制の制約の強さに鑑み、その許可条件の合憲性は厳格に審査されなければならない。

 したがって、3条1項各号が定める許可条件は、①目的が極めて重要であり、②手段が目的達成のために必要最小限度にとどまるものでない限り、憲法21条1項に反し違憲であると解する。

(5)本件デモ条例3条1項4号は、不許可事由として、B県住民投票に関する条例(以下、「本件住民投票条例」という。)14条1項2号及び3号に該当する行為、すなわち、「平穏な生活環境を害する行為」「商業活動に支障を来す行為」がなされることが明らかであることを挙げている。

 同号の目的は、周辺住民の「平穏な生活環境」及び「商業活動」の保護にあるものと解されるが、そもそもこのような利益は抽象的に過ぎ、極めて重要な目的とまではいえない(①)。また、このような目的を達成するためには、不許可処分によらずとも、警察に出動を要請することによっても達成が可能であるから、必要最小限度の制約ともいえない(②)。

(6)以上により、本件デモ条例3条1項4号の許可条件は、Aらのデモ行進の自由を侵害するものとして、憲法21条1項に反し違憲である。

2.処分違憲の主張

(1)本件デモ条例3条1項4号が定める許可条件自体が憲法21条1項に反しないとしても、前に述べた集会の自由の重要性に鑑み、その許可条件は厳格に解すべきである。すなわち、3条1項4号の不許可事由は、「平穏な生活環境」ないし「商業活動」が害される明らかな差し迫った危険が具体的に認められる場合に限って充足すると解すべきである。

(2)これを本件についてみると、Aらが計画していた3回目のデモ行進は、1回目・2回目と同様、平和的な態様で行われることが予定されていたものであり、現に、1回目のデモ行進の際は、Aらはデモ参加者らに対し拡声器を使用しないこと、ビラ等は配布せずにゴミを捨てないようにすることを徹底し、若干の苦情があったこと以外は特に問題を起こすことはなかった。2回目のデモ行進の際は、シュプレヒコールや交通渋滞が生じ、騒音被害を訴える苦情や飲食店に売上が減少したことに対する苦情が多く寄せられているものの、これらの被害は、警察に出動要請をして交通整理等の軽微をしてもらうことに回避が可能なものであった。

 したがって、2回目の同様の場所・態様・予定参加人数で行われる3回目のデモ行進においても、「平穏な生活環境」や「商業活動」に対する被害は未だ回避可能なものにとどまることが予想されるから、「平穏な生活環境」「商業活動」が害される明らかな差し迫った危険が具体的に認められたとまではいえない。

(3)よって、本件不許可処分は、本件デモ条例3条1項4号を充足しないにもかかわらずなされたものであるから、Aらの集会の自由を不当に侵害するものとして、憲法21条1項に反し違憲である。

 

第2 本件教室使用不許可処分に対する憲法上の主張

1.法令違憲の主張

(1)Aらが、B県立大学の教室で「格差問題と憲法」というテーマの講演会の開催を行う自由も、憲法21条1項の集会の自由の一内容として保障される。

 なぜなら、講演会も複数の者が一定の場所において行うコミュニケーション活動である点で「集会」といえるし、格差問題に関する見識を深め、近く行われる住民投票における意思決定の前提をなすという点で、自己実現の価値・自己統治の価値を有するからである。

(2)B県立大学教室使用規則(以下、「本件規則」という。)では、政治目的での教室使用を禁止している点で、かかる集会の自由を制約するものである。

(3)上記の制約は、政治目的での教室使用を制約する点で表現内容に着目した制約である。かかる表現内容規制は公権力の恣意的運用によって思想の自由市場を歪めるおそれがあるため、厳格な審査が必要となる。すなわち、①目的が極めて重要であり、②手段が目的達成のために必要最小限度にとどまるものでない限り、憲法21条1項に反し違憲であると解する。

(4)本件規則の目的は、研究・教育の場にふさわしい大学の秩序の維持にあると解されるところ、とりわけ法学部においては、政治目的のために集会を行うことも重要な研究・教育の場といえるから、上記目的は極めて重要であるとまではいえない(①)。また、政治目的であっても大学の秩序維持に影響を与えない平和的な態様の集会もありうるから、政治目的でありさえすれば一律に教室使用を禁じている点で、必要最小限度の制約とはいえない(②)。

(5)以上により、本件規則は、Aらの集会の自由を侵害するものとして、憲法21条1項に反し違憲である。

2.処分違憲の主張

(1)仮に本件規則そのものが憲法21条1項に違反しないとしても、それに基づいてなされた本件不許可処分は違憲である。

(2)すなわち、B県立大学は、政治目的であっても、ゼミ活動目的の申請であって、かつ、ゼミの担当教授が承認していれば教室の使用を許可するという運用を行っていた(以下、「本件運用」という。)ところ、Aらの申請はCゼミの活動としてなされたものであり、C教授の承認も得ていた。また、同様に格差問題をテーマとした講演会であるにもかかわらず、経済学部の学生が行った教室使用申請は許可され、Aらの申請は不許可とされている。

 これらの事情に鑑みると、本件不許可処分は、社会福祉関係費の削減につき知事と県議会が激しく対立していたという状況下で、デモ行進をはじめとするAらの活動が近く行われる「社会福祉関係費の削減の是非」に関する住民投票に影響を与えることを憂慮したB県知事が、Aらの活動を封じ込めようという意図の下に行ったものといえる。このような見解差別的な規制は、まさに公権力の恣意によって思想の自由市場を歪めるものであるから、憲法21条1項に反し許されないというべきである。

(3)以上により、本件不許可処分は憲法21条1項に反し違憲である。

 

〔設問2〕

第1 本件デモ行進不許可処分に対するB県側の反論及び自己の見解

1.法令違憲の主張について

(1)B県側の反論

 本件デモ条例3条1項4号の許可条件は、Aらのデモ行進の自由を制約するものであるが、限定解釈することが可能であり、憲法21条1項に反するものではない。

(2)自己の見解

 B県の主張するとおり、本件デモ条例3条1項4号の許可条件である、「平穏な生活環境を害する行為」「商業活動に支障を来す行為」は、それぞれ「平穏な生活環境」又は「商業活動」が害される明らかな差し迫った危険が具体的に認められる場合と限定して解釈することが可能である。そして、このような解釈は、通常の判断能力を有する一般人にとっても可能であり、不意打ちや萎縮的効果をもたらすものでもない。

 このように限定して解釈される限り、規制目的は具体的な「平穏な生活環境」ないし「商業活動」として極めて重要なものといえるし(①)、警察の警備等によっても回避しきれない具体的な被害のおそれを防止するためには、不許可とすることも必要最小限度の制約といえる(②)。

 したがって、本件デモ条例3条1項4号の許可条件は、憲法21条1項に反するものではない。

2,処分違憲の主張について

(1)B県側の反論

 Aらが行った2回目のデモにおいては、交通渋滞やシュプレヒコールの発生により、交通事故への不安や騒音被害を訴える苦情や、飲食店の売上減少に対する苦情が多く寄せられていた。したがって、これと同規模で行われる予定であった3回目のデモ行進においても、このような被害の発生が具体的に予見される状況にあったから、本件デモ条例3条1項4号の事由が認められる。よって、本件不許可処分は憲法21条1項に反するものではない。

(2)自己の見解

 確かに、B県の主張するように、2回目のデモについては、周辺住民から具体的な騒音被害や飲食店の売上減少の被害が生じていた。しかし、このような被害は、幹線道路における2000人規模のデモ行進には通常付随する程度のものといえ、暴力や意図的な交通妨害にまで及ぶものではない。また、3回目のデモ行進も同規模のものであって、生じる被害も2回目のデモと同程度のものであることが予想されるところ、上記の程度の被害であれば、条件付きの許可によりAら主導者に対し、参加者に交通妨害等をしないよう指導することを義務付けたり、警察に出動要請して交通整理や警備を行うことによっても十分回避することが可能である。

 B県がこれらの措置を講ずることなく本件不許可処分を行ったのは、むしろ、社会福祉関係費の削減につき知事と県議会が激しく対立していたという状況下で、Aらのデモ行進が「社会福祉関係費の削減の是非」に関する住民投票に影響を与えることを憂慮し、Aらの活動を封じ込めようという意図の下に行ったものといえる。

 したがって、本件事情の下では「平穏な生活環境」「商業活動」が害される明らかな差し迫った危険が具体的に認められたとまではいえず、本件デモ条例3条1項4号を充足しないから、本件不許可処分は憲法21条1項に反し違憲である。

 

第2 本件教室使用不許可処分に対する憲法上の反論及び自己の見解

1.法令違憲の主張について

(1)B県側の反論

 そもそも、憲法21条1項の集会の自由は、国の施設を使用させることを請求する権利まで保障するものではないから、本件規則はAらの集会の自由を制約するものではない。また、大学には大学の自治が保障されているから、政治目的の使用を一律に禁止したとしても憲法21条1項に反するものではない。

(2)自己の見解

  ア.集会の自由の法的性質について

 憲法21条が保障する集会の自由は、自由権すなわち国家に対する不作為請求権であって、当然に作為請求権を含むものではない。したがって、この限りでB県の反論は正当である。

 しかし、B県立大学の教室は、普通地方公共団体であるB権が管理しているものであるから、地方自治法244条1項にいう「公の施設」に該当する。そして、「公の施設」については「正当な理由」のない限り利用を拒むことができないとされているから(同条2項)、「公の施設」における集会については、当該施設の利用を請求することも憲法21条1項の集会の自由に含まれると解すべきである。

 したがって、この点に関するB県の反論は妥当でなく、本件規則はAらの集会の自由を制約するものである。

  イ.大学の自治との関係について

 大学の自治は、学問の自由を保障を担保するための制度的保障として、憲法23条を根拠に認められる。もっとも、大学の自治が認められるのは、研究・教育のための秩序維持の限度に限られる。

 これを本件についてみると、政治目的による集会は、一般的には研究・教育にふさわしい大学の環境を害するものといえるが、殊に法学部においては、民主制の過程を実体験するという点でむしろ研究・教育に資する側面がある。したがって、大学の自治を考慮しても、本件規則の規制目的は極めて重要であるとまではいえない(①)。また、政治目的であっても大学の秩序維持に影響を与えない平和的な態様の集会もありうるから、政治目的の教室使用一律に禁じている点で、必要最小限度の制約ともいえない(②)。

 以上により、本件規則は、21条1項に反し違憲である。

2.処分違憲の主張について

(1)B県側の反論

 本件運用は事実上のものにとどまるから、本件講演会が政治目的の集会であることが明らかである以上、本件不許可処分は21条1項に反するものではない。

(2)自己の見解

 Aが主張する通り、本件運用の存在及び同様のテーマである経済学部の学生による講演会は許可されている事実に鑑みると、本件不許可処分は、デモ行進等のAらの活動が住民投票に与える影響を憂慮したB県知事が、Aらの活動を封じ込めようという意図の下に行ったものといえる。このような見解差別的な規制は、正当な理由のない恣意的な規制に他ならないから、憲法21条1項に反し許されないというべきである。よって、本件不許可処分は憲法21条1項に反し違憲である。

以上

 

【感想】

集会の自由(デモ)はヤマを張っていた論点だったので、ラッキーと思った。大枠として、道路における集会と公共の施設における集会との違いを指摘できるかがポイントだと思い、ケースブック憲法有斐閣)のUNIT11の問1が想起された。設問1はそれなりに書けたものの、設問2で時間不足ぎみになってしまったのが残念である。

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