司法試験受験生・司法修習生の就職活動②〜大規模企業法務系法律事務所 ※旧ブログ記事転載

1 「大規模企業法務系法律事務所」とは?

一般に「大手事務所」「大手渉外事務所」などと言われますが,本稿では,さしあたり下記の法律事務所を「大規模企業法務系法律事務所」と定義して話を進めていきたいと思います。
 
 【東京】(以下,「東京5大事務所」といいます)
 ・西村あさひ法律事務所(http://www.jurists.co.jp/ja/
 ・森・濱田松本法律事務所(http://www.mhmjapan.com/
 ・長島・大野・常松法律事務所(http://www.noandt.com/
 ・アンダーソン・毛利・友常法律事務所(http://www.amt-law.com/
 ・TMI総合法律事務所(http://www.tmi.gr.jp/
 
 【大阪】(以下,「大阪4大事務所」といいます)
 ・大江橋法律事務所(http://www.ohebashi.com/
 ・北浜法律事務所(http://www.kitahama.or.jp/
 ・御堂筋法律事務所(http://www.midosujilaw.gr.jp/
 
 なお,ここに挙げられていない事務所であっても,後述の採用スケジュールや留意点があてはまる場合があります(例えば,ベーカー&マッケンジー法律事務所,シティユーワ法律事務所,その他外資系法律事務所など)。
 

2 大まかな採用スケジュール

 《法科大学院最終学年次》 
 【4月〜6月】
 サマクラ応募・面接(東京)
 ※大阪でも一部サマクラ募集あり
 【7月〜8月】
 サマクラ(東京・大阪)

 

 《司法試験受験年》
 【4月〜5月】
 個別訪問応募(東京)
 サマクラ応募・面接(大阪)
 【6月】
 個別訪問(東京)→2回〜3回で内定
 サマクラ(大阪)→優秀者には内定
 【7月】
 東京5大事務所で内定がほぼ出そろう
 サマクラ(大阪)→優秀者には内定
 【9月】
 司法試験成績優秀者のみ個別訪問(東京)
 個別訪問開始(大阪)
 

3 サマークラークの重要性

(1)サマークラークとは?

大規模企業法務系法律事務所への就活を有利に進めるにあたって,最も重要なのが「サマークラーク」(サマクラ)への参加です。
 
サマークラークとは,主に企業法務系の大規模事務所において1週間程度,給与をもらいながら就業体験をすることをいいます。名目上は就業体験(研修)となっていますが,実質的には法律事務所の採用活動の一環として非常に重要視されています。特に東京5大事務所に内定をもらうためには,法科大学院在学中にサマクラに参加していることがほぼ必須であるとも言われています。
 
 このサマクラで優秀さをアピールすることができれば,司法試験終了直後に個別訪問に呼ばれ,その場で内定がもらえることもあるようです。ただ,サマクラに参加していなくても,自分から応募すれば個別訪問に呼んでもらえることはあるので(ぼくがそうでした),東京5大事務所を志望される方はあきらめずに個別訪問に応募してみましょう。
 
大阪4大事務所の中にも法科大学院在学生向けサマクラを実施しているところがありますが,内定への影響力は東京5大事務所ほどではないようです。大阪4大事務所の場合は,むしろ司法試験終了後のサマクラが重要です。こちらは今からでも間に合うので,積極的に応募してみましょう。
 
(サマクラ募集事務所の探し方については後述)
 

(2)サマクラの内容 

サマクラでは,訴状や準備書面等の起案,契約書のチェック,法令・判例のリサーチといった課題を与えられます。

サマクラの課題については,①参加者全員に同じ課題を与える場合と,②指導担当者の裁量でその都度適当な課題を与える場合があります。①の場合は起案や検討の結果を,②の場合は結果そのものよりも課題に取り組む姿勢やプロセスを重視しているということでしょうか。いずれにしても,一生懸命に取り組んで能力や意欲をアピールする必要があります。
 
また,短期間ながら実際の職場で一緒に過ごすということは,
 
  ・あいさつができるか
  ・時間を守れるか
  ・人の目を見て話せるか
  ・事務員にも礼儀正しい振る舞いができるか
  ・身だしなみは整っているか
  ・食事や飲み会のお礼を言えるか
  ・飲み会で自分から話題を切り出せるか
  ・自分から質問や報告・相談ができるか
 
といった,社会人としてのマナーも当然見られているということです。
 
 大規模法律事務所としては,ただ数年間起案やDD(デューディリジェンス)のマシーンとして働いてくれる人が欲しいのではなく(そういう事務所もあるかもしれませんが…),ゆくゆくは新しいクライアントを開拓して,パートナーとして事務所の経営を担ってくれる人材が欲しいわけです。そうであれば,法科大学院の成績や起案の能力はもちろん重要ですが,それだけではなく,人間的な魅力も備えていなければ内定を得ることは難しいでしょう。
 
 要は,「こいつと一緒に仕事をしたい」「こいつなら自分の大事なクライアントに合わせても大丈夫だ」「こいつは将来新しいクライアントを開拓していってくれるだろう」という評価をもらうことが重要だということですね。
 

(3)サマクラ募集事務所の探し方

大阪4大事務所については,現時点(平成26年5月19日)でいずれもサマクラの募集をしているようです。詳細は前述のHPを参照してください。
 
また,その他の事務所のサマクラについても「アットリーガル」(http://www.atlegal.jp/list.php)で随時情報が配信されていくかと思いますので,まだ会員登録されていない方はすぐに登録しましょう。ただ,アットリーガル等で情報配信せずに,ひっそりと事務所HPで募集を開始する事務所もありますので,注意が必要です。
 以下の事務所はアットリーガルで配信されなくてもサマクラを募集する可能性がありますので,興味のある方はこまめにHPをチェックしましょう(必ずしも網羅的ではありませんのでご了承ください)。
 
 ・三宅法律事務所(http://www.miyake.gr.jp/
 ・色川法律事務所(http://www.irokawa.gr.jp/law/
 ・関西法律特許事務所(http://www.kansai-lp.com/index2.html
 ・きっかわ法律事務所(http://www.kikkawalaw.com/
 ・共栄法律事務所(http://www.kyoei-law.com/
 ・協和綜合法律事務所(http://www.kyowa-sogo.gr.jp/
 ・第一法律事務所(大阪)(http://www.daiichi-law.jp/
 ・中央総合法律事務所(http://www.clo.jp/
 ・堂島法律事務所(http://www.dojima.gr.jp/
 ・はばたき綜合法律事務所(http://www.habataki-law.jp/
 
 サマクラの選考は,基本的に書類の到着順に随時行われるので,少しでも早く応募することが重要です。そして,早く応募するためには,言うまでもなく迅速な情報収集が欠かせません。興味のある事務所があれば,その事務所がサマクラ(あるいは個別訪問)を募集していないか,こまめにチェックする習慣をつけましょう。
 

4 成績・外国語能力の重要性

大規模企業法務系法律事務所の個別訪問やサマクラに応募するにあたって,必ず申告を求められるのが,法科大学院の成績や語学のスコアです。法科大学院の成績に関してはいいに越したことはありません(そして今更どうにもなりません)が,語学力に関しては,事務所ごとにトーンが異なるようです。
 
ある大阪4大事務所は,採用情報ページで外国語能力を選考上有利な事情として考慮すると名言していますし,その事務所のパートナーは「TOEICスコアが800点以上あれば『おっ』と思うし,少なくとも書類はちゃんと読もうと思う」とおっしゃっていました。他方で,ある東京5大事務所のパートナーは「今の英語力はそこまで重視していない。別に英語ができなくも他に光るものがあれば採用する。英語は実務に出ればできるようになるから」とおっしゃっていました。
 
どのくらい語学力が重視されているのか,実際のところはわかりません。ぼくの当時のTOEICスコアは785点という微妙なものでしたが,採用上有利にも不利にも働いた感触はありませんでした。
 
ただ,一つ言えるのは,今TOEIC等の語学スコアを持っていなくても,それだけで不採用になるわけではないということです。
 
というわけで,TOEICのスコアを持っていないからといって諦めることはありません!とにかく応募してみましょう!(ただ,面接ではTOEICスコアがないことをツッコまれる可能性がありますので,その際は現在勉強中などとうまいことを言って,少なくとも意欲は見せるようにしましょう。)
 
成績についても語学力についても,社会人経験者でない限り法科大学院修了生はみんな似たような経歴なので(失礼!),少なくとも書類選考段階では,数値で比較可能なところで優劣をつけざるをえない,というのが実情なのではないかと個人的には思っています。
 
なお,某法律事務所はイケメンを優遇しているというウワサがありますが,真偽の程は明らかではありません…(笑)。
 

5 面接(個別訪問)のポイント

 (1)個別訪問のスケジュール

東京5大事務所の個別訪問は,司法試験直後から一斉に開始されます。
 
法科大学院在学中のサマクラで高評価を得た人は,試験翌日に事務所側から呼び出され,そのまま内定をもらってしまうというから驚きですね。そういった例外的なケースを除くと,5月下旬から6月上旬までの間に1回目の個別訪問に呼ばれ,それを通過して2回目・3回目と回を重ねていくパターンが一般的です。多くの人は2回目か3回目の個別訪問で内定を得るようです。
 
1回目の個別訪問から2回目の個別訪問に呼ばれるまでの間隔は,ぼくの経験では早くて1週間以内,遅くて2週間以内です。連絡が電話で来る事務所もあれば,メールで来る事務所もあります。2週間を超えてしまうと,基本的には不採用になったと考えたほうがいいでしょう。ただ,まれに2週間以降でも連絡が来るケースもあるようです。
 
このように,東京5大事務所は応募から内定までが非常にスピーディーで,7月中にはほぼ内定が出揃ってしまうようです。
 

(2)面接の内容

東京5大事務所の個別訪問の面接官は,たいていは3人で,パートナー2名+アソシエイト1名の構成が多いように思います。

面接の内容自体は,特別なことを聞かれるわけではなく,お約束の「弁護士になりたいと思った理由」に始まり,「目指す弁護士像」「興味のある法律分野」「趣味・特技」「自分の長所・短所」「最近気になったニュース」といった一般的な質問が多かったように思います。事務所によっては,これらの質問を事前アンケートの形式にして回答を提出させ,それに基づいて面接をすることもありました。
 
ぼくの感触としては,しゃべっている内容そのものよりも,しゃべり方や態度(質問に端的に答えているか,自信をもって話しているか,相手の目を見て話しているか)を重視しているように感じました。

ただ,一度だけ,ぼくが知財に興味があると言ったら,職務発明を法人帰属とする改正案についてどう思うかという議論を持ちかけられたことがありました。その面接官は知財業界でも有名な先生だったので,ちょっと焦りましたが,そのトピックについては,数日前の日経新聞で記事が掲載されており,ぼくはそれを読んでいたので,ぎこちないながらも何とか事なきを得たのでした。(まあ,結果的には内定をもらえなかったのですが…(笑))

今思うと,本当に企業法務に興味があるのであれば,少なくとも日経新聞くらいは読んでいるだろうということで,ちょっと試されていたのだろうと思います。そういうわけで,企業法務系事務所を志望されるのであれば,日経新聞くらいは読む習慣を身につけていた方がいいかと思います。
 
 その他の留意点としては,(東京5大事務所の面接に限らずですが)やはり最後の質問コーナーで積極的に質問をした方がいいということです。質問事項としては,単に自分が知りたいというだけではなく,相手も気持ちよく語れることを聞くべきです。
例を挙げるとすれば,下記のような質問でしょうか。
 
 ・パートナーとして,どういうアソシエイトなら重要案件を任せたいと思うか?
 ・クライアントからの信頼を得るにはどのような努力が必要か?
 ・先生はどうやってその分野のクライアントを獲得してきたのか?
 ・案件に失敗した場合にクライアントとのコミュニケーションで気をつけていることはあるか?
 
そして,こういった質問をすると,キレ者の先生ほど結構な確率で「あなたはどう思う?」と返してきます(笑)。そうなったらある意味こっちのものです。自分の思いを遠慮なくぶつけてみましょう。質問コーナーを利用して,面接で語りきれなかったことを最後にカバーするわけです。
 ここで面接官の琴線に触れることを言えれば,良い印象を残すことができるでしょう。
 

6 「とりあえず応募してみる」のススメ

この記事をご覧になっている方の中には,大規模企業法務系法律事務所には興味がないという方もいらっしゃるでしょう。しかし,ぼくとしては,そういう方であっても,大規模企業法務系法律事務所の個別訪問やサマクラに「とりあえず」応募してみることをおすすめします。
 
応募した結果がどうなったとしても,あなたが失うものは何もないからです。
 
たとえある事務所の選考に通らなかったとしても,他の事務所の就活には何ら影響しません。むしろ,エントリーシートを書いた経験や面接を受けた経験はその後の就活に大いに役に立つはずです。エントリーシートも面接も,結局は場数が大事ですからね(笑)。
 
金銭的な面についても,大規模企業法務系法律事務所の個別訪問であればほとんどの事務所が交通費を支給してくれますし,サマクラであれば1週間で3万円〜5万円ほど稼ぐことができます。
 
そもそも,「興味がない」かどうかは,しっかり自分の目で見てみなければわからないはずです。勝手なイメージやうわさで法律事務所の良し悪しを判断するのは本当にもったいないことです。興味がないと思っていた事務所であっても,実際の案件に触れてみたり所属弁護士さんの話を聞いたりするうちに,考えが変わってくることもあるかもしれません。

ぼくも法科大学院時代には考えもしなかったところに就職することになったクチなので,あえて言いますが,人生はどうなるかわかりません。自分から積極的に動いていけば,きっと素敵な出会いが待っているはずです。
 
是非,大規模企業法務系法律事務所の個別訪問やサマクラに応募してみてください!
 

司法試験受験生・司法修習生の就職活動①〜総論 ※旧ブログ記事転載

1 本稿の趣旨

今年(平成26年)の司法試験を受験されたみなさん,本当にお疲れ様でした。

長い間懸命に受験勉強に励んできたこと,5日間にも及ぶハードな試験を乗り越えたことについて,まずはどうぞ自分を褒めてあげてください。よく頑張りました。

 
さて,大イベントが終わり,合否のことはひとまず忘れて,ゆっくり休みたい・遊びたいという気持ちもあることでしょう。ただ,その一方でみなさん気になっていることもあるのではないでしょうか。今この記事を読んでいることが,その証左でしょう(笑)。

 

 そう,就職活動です。

 

ここ数年,司法修習生・新人弁護士の就職難が叫ばれています。就職難の具体例(「即独」「軒弁」「未登録者」など)を長々と述べることはしませんが,現在修習生である自分の体感としても厳しい状況に間違いはないようです。

 

就職活動については,ぼくもそれなりに落とされましたし,焦りましたし,悩みました。しかし他方では,学ぶことも本当に多く,自分のやりたいことや目標を今一度見直すきっかけにもなりました。

そこで,今から就職活動をされるみなさんに少しでも情報を提供できればと思い,司法試験受験生(合格前)・司法修習生(合格後)の就職活動について記事を書いてみたいと思います。

 
ぼく自身の拙い経験が中心になるため,情報の正確性は保証できませんが,気楽にお読みいただければと思います。
 

2 私の就職活動の経緯・結果

就職活動についてはいろいろとありましたが,ぼくは法律事務所から2つ,一般企業から2つの内定をいただくことができました。自分で言うのも何ですが,大規模事務所から小規模事務所・個人事務所,一般企業まで比較的幅広く見て回ったのではないかと思います。

また,決して100%自分の思い通りにいったわけではありませんが,結果的には落ち着くべきところに落ち着いたのかなとも思っています(まだ働いていないのであれですが…(笑))。

 
その経緯はだいたいこんな感じでした。

 

 【5月】

 司法試験終了
 大阪大手事務所にサマクラ応募・面接
 東京5大事務所等の個別訪問に応募

 【6月】 

 東京5大事務所等の個別訪問(内定には至らず)

 【7月】

 大阪大手事務所にてサマクラ(内定には至らず)
 大阪企業法務系事務所にてサマクラ(内定には至らず)

 【8月】 

 大阪大手事務所にてサマクラ(内定には至らず)
 その他ちょくちょくと事務所説明会や面接など

 【9月】

 特に就活関係のイベントはなし
 合格発表後,複数の事務所に応募・面接

 【10月】

 東京三弁護士会合同就職説明会に参加し,インハウスにも興味を持つ
 修習地が地元に決定
 その他ちょくちょくと面接や説明会など

 【11月】 

 企業法務系法律事務所から内定
 合同説明会で興味を持った企業に応募・面接

 【12月】

 一般企業2社(総合商社・通信)から内定
 一般民事系法律事務所から内定

 【1月】

 最終的に行くところを決め,就職活動終了

 

3 本稿の構成について

以下の記事では,まず「総論」として,提出書類(エントリーシート等)の書き方や面接のポイント等,事務所の規模や専門分野にかかわらず共通する点について解説します。その後「各論」として,事務所の規模・専門分野や募集形態に応じた個別の留意点を述べていきたいと思います。

論文式試験の勉強方法〜まとめノートの作成 ※旧ブログ記事転載

1 論文式試験の勉強方法

以前のエントリーで短答式試験の勉強方法について書かせていただいたところ、論文式試験の勉強方法についてご質問をいただきました。


ぼくは、論文対策用のインプットとして、年明けまでに全科目の「まとめノート」を作成させ、試験直前の「ラストスパート期間」にそれを何度も回すという勉強をしておりました。


まとめノートを作成した理由は、「短答式試験の勉強方法」のレジュメの3ページに書いてある通り、情報の「蓄積」と「一元化」が重要であると考えたからです。この「蓄積」と「一元化」が出来ているかどうかで、試験直前期の学習効率は全く違ってくるように思います。


以下、もう少し詳しく説明したいと思います。 

 

2 今まで得た知識を蓄積し、一つのツールに一元化しておくことの必要性

試験本番で失敗するケースとして一番もったいなのは、「授業でやったor基本書で読んだ(ので当時は答案に書ける程度に理解していた)けれど、よく覚えていない」というものです。これでは、何のために2年間3年間必死に勉強してきたかわからないですよね。


このような悲劇が起きないように、今まで学習してきた知識を、何らかの有形的な方法で「蓄積」し、いつでも確認できるように「一元化」しておく必要があるわけです。

 

試験直前のラストスパート期間に実力を一気に合格レベルに持っていくための「準備」というのは、つまるところ、このような情報の「蓄積」と「一元化」に他なりません。

 

3 具体的な作成方法

定義・趣旨・要件・効果といった基本知識に加え、法科大学院の授業で扱った重要論点や重要判例の論理の流れを簡潔にまとめる感じで作成していました。

 

1科目当たり概ねA4で100頁程度にまとめ、あとで書き込みや資料の貼付けができるように右側が白紙になるように印刷・製本します。体裁としては、いわゆる「予備校本」っぽくなりますが、自分の言葉で、自分が理解できるように書いてあることに意味があるのです。

 

必ずしもノートとして作成する必要はなく、基本者や判例集をベースに書き込み等を加えてカスタマイズしても良いでしょう。

 

一つ注意点を申し上げておくと、まとめノート作成の目的はあくまでも、試験前2〜3ヶ月のラストスパート期間に、効率的に全科目全分野を復習するための「準備」をする点にあるということです。

 

つまり、最終的にはまとめノートを何度も読むことが必要で、そのための時間を残しておく必要があるわけです(4月や5月にノートを完成させてもあまり意味がありません)。

 

この点をよく踏まえて、いつまでにノートを完成させるのかを決めておかなければなりません。

 

4 参考例(会社法のまとめノート)

参考までに、ぼくが作成した会社法のまとめノートを下記URLにて公開したいと思います。内容の正確性については保証できませんが、よろしければご利用ください。

 

http://ja.scribd.com/doc/179138912/Note-Corporatelaw

 

短答式試験の勉強方法 ※旧ブログ記事転載

先日、某所にて短答式試験についての合格者講義を担当させていただきました。

概ね好評だったようなので、その際に配布したレジュメを下記URLにて掲載させていただきます(個人情報に関する部分は伏せております)。講義自体を聞かなくても、レジュメのみで内容は理解できるように作ってありますので、よろしければご利用ください。

http://ja.scribd.com/doc/178032842/Guidance-Resume

受験生の皆様のお役に立てましたら幸いです。

民法(民事系)の答案の書き方 ※旧ブログ記事転載

またブログの更新が滞っておりました。

軽く近況報告をさせていただくと、先日修習地が決まり、司法研修所から「白い悪魔」こと白表紙が送られてきました。事前課題や白表紙の読み込み、各種ガイダンス等で段々と忙しくなってきていますが、いよいよ修習という次のステージへ進めると思うとワクワクします。

 

さて、 最近はなんだかんだで司法試験の受験指導をさせていただく機会が多くあります。後輩の答案添削から、再受験者のためのゼミ指導、某予備校での択一試験対策講義などなど…。ぼく自身、受験指導が得意という自覚はないのですが、何にせよ、目標を持って頑張っている人の応援をさせていただけることは、大変光栄であり、ぼくにとってもいい刺激になっています。

 

先日、再受験者向けに民法の論文答案の書き方を指導させていただいたのですが、その際に配布したペーパーが割と好評だったので、このブログにも掲載させていただこうと思います。民法一般の論文答案の書き方について書いたつもりではありますが、上記ゼミで取り扱った問題が平成24年民事系第1問であったため、多少その問題意識に引きずられているところがあります。

では、以下引用です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

1 総論

  • 試験が始まったらまず配点比率を確認し、時間配分・紙幅配分の目安にする。

  • 答案のナンバリングは、第1→1→(1)→ア→(ア)の順とし、レベル毎に字下げを行う。第1や1といった大きい項目にはできるだけ見出しを付けるようにする。

  • 条文の指摘を怠らない。条文の指摘そのものに点が振られていることを忘れずに。条文を摘示する際は、項数、号/柱書、前段/後段、本文/但書まで特定する。

  •  要件の解釈論や当てはめを行う際には、条文の文言を「 」で引用し、できるだけ条文の文言に引きつけるようにする。

  •  答案構成は問題文の問いに対応させる。特に民法の場合は問いが親切で答案構成を誘導してくれているので、素直にそれに乗っかる(見出しも問いに対応させる)。

  •  答案の結びは、必ず問いに対応させる。
    ex 「主張は認められるか」→「主張は認められる/認められない」
     「請求することができるか」→「請求できる/できない」

  • 典型契約の成立を認定する際は、冒頭規定に定められた当該契約の本質的要素を摘示する。「契約の締結」=「契約の成立」ではないということに留意。事実摘示の方法は、『民事判決起案の手引』(法曹界)巻末の事実摘示記載例集を参考にするとよい。

    ex 売買契約の場合
    ☓「XとYは売買契約を締結している(555条)。」
    ○「XはYに対し、平成○月○年○日、本件土地を代金1000万円で売っているので、XY間で売買契約が成立している(555条)。

    ex 寄託契約の場合
     ☓「XとYは寄託契約を締結している(657条)。」
    ○「XとYは、平成○月○年○日、本件建物においてYがXのために△△を保管することを合意し、同日、XはYに対し△△を引き渡している。したがって、XY間で寄託契約が成立している(657条)。」 

2 各論

(1)設問1について(要件事実論)

  •  設問1で問われる「法律上の意義」とは、要するに当該事実の主張立証上の位置づけ(意味付け)のことである。

  • 司法試験で問われる事実の主張立証上の位置づけはだいたい以下のパターンに分類される。
    ①請求原因事実(主要事実)に直接該当する事実
    ②請求原因事実に直接には該当しないがその存在を推認させる事実(積極の間接事実)
    ③請求原因事実に直接には該当しないがその不存在を推認させる事実(消極の間接事実)
    ④抗弁事実(主要事実)に直接該当する事実
    ⑤抗弁事実に直接には該当しないが、その存在を推認させる事実(積極の間接事実)
    ⑥抗弁事実に直接には該当しないが、その不存在を推認させる事実(消極の間接事実)
    ⑦請求原因事実や抗弁事実とは無関係(法律上の意義なし)

  • このような主張立証上の位置づけを論じるには、前提として何が請求原因事実で何が抗弁事実であるのかを明らかにする必要があり、そのためには実体法上の要件の理解と解釈が不可欠となる。
    ※出題趣旨からの引用
    「設問1では、要件事実とその主張立証責任について平板に述べただけでは足りず、要件事実理解の前提となる民法の実体法理論について丁寧な分析と検討をし、これを踏まえて要件・効果面へと展開することが求められる。」

  • 以上により、設問1の書き方としては、次のようになるはずである。
    (ⅰ)当事者の言い分に基づく法律構成(条文)の摘示
    (ⅱ)実体法上の要件の摘示(条文の文言を引用して列挙する)
    (ⅲ)列挙した要件につき何が請求原因となり何が抗弁に回るかの検討(実体法の解釈論)
    (ⅳ)下線部の事実がどの請求原因/抗弁との関係でどのような意味をもつのかの検討

(2)設問2以降について(請求権パターン)

  • 請求権パターンとは、一定の事実関係や当事者の言い分を前提に、「何を請求することができるか」「どのような法的手段が考えられるか」などと問う問題のことをいう。

  •  何が請求できるかは、すなわち条文に規定された法律効果による。したがって、請求権パターンは、法律効果(請求の趣旨)から遡って複数ありうる法律構成(訴訟物)を考えさせ、その要件の充足性を検討させる問題といえる。

  •  よって、請求権パターンの検討順序(考え方)としては、次のようになる。
    ①誰が誰に何を要求しているのか(たいていは「金を払え」か「物を渡せ」のどちらか)
    ②請求の根拠となる法律構成(条文)は何が考えられるか(訴訟物の設定)
    ③当該法律構成によった場合、どの要件を充足しなければならないか(要件の列挙)
    ④本問では特にどの要件が問題となり、どのような解釈がありうるか(要件の解釈)
    ⑤自説の解釈によれば、本問で要件は充足されているか(あてはめ)
    ⑥要件を充足するとした場合、具体的に何が請求できるか(請求の内容及び結論)
    ※もっとも、新司法試験においては、設問の側で①②まで特定してくれている場合も多い。

  • 請求権パターンの基本的な論述スタイルは、(ⅰ)冒頭で要件列挙→(ⅱ)要件ごとに項目分けをして一つずつあてはめる、となる。もっとも、特に問題となる要件については問題提起→規範定立(判例通説に従う)→あてはめの順で丁寧に検討する。

  • 上記の論述スタイルをとるメリットは次の2点にある。
    ①冒頭で要件を全部挙げているので検討漏れを防げる(いわゆる「論点飛びつき型答案」になることを防げる)。
    ②新司法試験では何を書けばいいのか一見して分からない問題が多いが、要件を一つ一つ検討するというスタイルをとっていれば問題点に気がつきやすく、仮に気がつかなくても無意識に言及できているということがあり、相対的には浮き上がることができる。

  • 債務不履行や過失(帰責事由)の有無を論じる際には、当事者がいかなる義務を負っているのか(契約内容の解釈から導く)、いかなる行為によってそれに違反したといえるのかを具体的に特定する。

  • 損害賠償請求の場合には、「損害」の中身(損害項目、損害額、原因行為との相当因果関係の有無など)を具体的に書く(会社法でも注意)。 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以上です。少しでも受験生の皆様のお役に立てましたなら幸いです。 

【平成25年司法試験再現答案】知的財産法 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

【第1問】

第1 設問1について

1.請求原因

(1)まず、Xは発明αにかかる本件特許権の設定登録を受けているから「特許権者」(特許法(以下、省略する。)100条1項)。

(2)特許権を「侵害する者」(100条1項)とは、「業として」「特許発明」の「実施」をする者をいう(68条本文参照)。この点、Yが使用している方法1及び方法2は、物質b1を用いるか物質b2を用いるかという点で違いがあるものの、両物質の上位概念である物質Bを用いた発明αの方法に包摂される関係にあるから、いずれも「物を生産する方法の発明」(2条3項3号)である発明αの「技術的範囲」(70条1項)に属している。

 したがって、Yが方法1及び方法2を「使用」して化合物Cの製造を行うことは、「業として」「特許発明」を「実施」(2条3項3号)したものといえるから、Yは「侵害する者」にあたる。

(3)以上により、Xの差止請求は請求原因を満たしている(100条1項)。

2.方法1に関するYの抗弁

(1)無効の抗弁(104条の3第1項)

 Xは、乙から方法1に関する特許を受ける権利の譲渡を受け、同じく方法1に関する特許を受ける権利を承継した(35条2項反対解釈)Yよりも先に出願しているから、34条1項によりXが特許を受ける権利を確定的に取得し、YはXに対抗することができないとも思える。

 しかし、方法1に関する発明は甲と乙の共同発明であるから、甲の「同意」がない以上、Xに対する特許を受ける権利の譲渡は無効である(33条3項)。したがって、Xは最初から無権利であって34条1項の「第三者」にはあたらないと解されるから、Yは出願なくして特許を受ける権利の承継をXに対抗することができる。

 よって、Xは方法1に関する特許を受ける権利を有していないから、本件特許には123条1項6号の無効原因があり、Yは無効の抗弁を主張することができる(104条の3第1項)

(2)先使用による通常実施権の抗弁(79条)

 仮に、無効の抗弁が成立しないとしても、Yは先使用による通常実施権(79条)を取得したとしてXに対抗することができる。

 すなわち、方法1は、Yの従業員である甲と乙が職務発明(35条1項)として共同で発明したものであるところ、Yは甲・乙から知得して、Xによる発明αの出願前に方法1を「使用」することにより「実施」(2条3項3号)して化合物Cを製造するという「事業」を行っていたといえるから、方法1につき通常実施権を取得している(79条)。

 したがって、Yによる方法1の使用は、本件特許権の侵害にあたらない(78条2項)。

3.方法2に関するYの抗弁

(1)方法2は、乙がYを退職してXの従業員となった後になされたものであるから、方法2について独自の先使用権(79条)は成立しない。

(2)もっとも、方法1と方法2は、物質b1を用いるか物質b2を用いるかという点に違いがあるにすぎない。そこで、方法2の使用は、方法1について成立した先使用権の「実施…している発明…の範囲内」(79条)にあるものとして、侵害にならないと主張することはできないか。

 この点、技術革新が著しい現代において、先使用権の範囲を出願時の実施形式に限定されるとすれば、先使用権の制度自体を無意味にしてしまうおそれがある。そこで、「実施…している発明…の範囲」とは、特許出願の際に先使用権者が現に実施していた形式に限定されるものではなく、その実施形式に具現化された技術的思想と同一性を失わない範囲内において、変更した実施形式にも及ぶものと解すべきである。

(3)これを本件についてみると、方法2は物質b2を用いることにより、方法1よりも顕著に高い収率で化合物Cを生産するものであるが、物質b1・b2共に物質Bという上位概念に包摂されるものであるから、両方法には類似性があったといえる。また、方法2の使用は、方法1に用いていた生産ラインを一部変更するだけで可能になるものであるから、両方法を使用するにあたっての設備上の障壁も低かったといえる。

 したがって、方法1に具現化された技術的思想の範囲には、方法2も含まれていたといえるから、方法2は「実施…している発明…の範囲」にあるものとして、方法1について成立した先使用権が及ぶ(79条)。

(4)よって、Yによる方法2の使用は、本件特許権の侵害にあたらない(78条2項)。

 

第2 設問2について

 Yは、方法2の使用が、方法1について成立した先使用権の範囲内にあるという。

 しかし、Yの主張する先使用権の拡張の根拠は、先使用権の範囲が特許出願時の実施形式に限られ、出願後の技術進歩によって可能になった実施形式についてはおよそ先使用権が及ばないとすれば、先使用権者の保護に欠けるという点にあるところ、そもそも物質b1の代わりに物質b2を用いるということは、本件特許の出願前に可能になっていたものであり、出願後の技術進歩によって可能になったものではない。

 したがって、上記の根拠があてはまらないから、Yの主張はその前提を欠いている。よって、方法1につき成立した先使用権は、方法2の使用については及ばない。

 

第3 設問3について

1.Xに対する本件特許権の移転請求(74条1項)の可否

(1)設問1で述べたように、本件特許権には123条1項6号の無効原因がある(74条1項)。

(2)また、設問1で述べたとおり、方法1に関する特許を受ける権利は、Xが「第三者」(34条1項)にあたらない結果、Yが確定的に取得する。他方、方法2に関する特許を受ける権利は、乙から譲渡を受けたXが取得している。

 本件特許権にかかる発明αが、物質b1・b2の上位概念である物質Bを用いることにより、方法1と方法2を包含する関係にあることに鑑みれば、発明αに関する特許を受ける権利は、XとYの共有に属しているものというべきである。

 したがって、方法1に関する限りで、Yは発明αについての「特許を受ける権利を有する者」(74条1項)に該当する。

(3)以上により、Yは自己の持分である方法1に関する限りで、Xに対し、本件特許権の移転請求をすることができる(74条1項、規則40条の2)。なお、Xは、当該持分の移転につき自己の同意がないことを理由に、上記移転請求を拒むことができない(74条3項)。

2.Xに対する方法1使用の差止請求の可否

 方法1に関する本件特許権の移転請求が認められれば、方法1の使用に関する限りでXは「侵害する者」にあたるから、YはXに対し、方法1の差止めを請求することができる(100条1項)。

以上

 

【第2問】

第1 設問1について

1.Aの主張

(1)本件小説は、古代中国の武将αの数奇な生涯を描いた小説であって、Aの「思想又は感情を創作的に表現したもの」であって、「文芸…の範囲」に属するものであるから、「小説の著作物」として「著作物」にあたる(著作権法(以下、省略する。)2条1項1号、10条1項1号)。そして、執筆者であるAが「著作者」として著作権を享有する(2条1項2号、17条1項)。

(2)本件漫画は、Bが、本件小説に登場するαその他の登場人物について、小説で言語として描かれた特徴に独自の視点を加味して描くことにより、新たな創作性を付与して「翻案」したものといえるから、本件小説の「二次的著作物」(2条1項11号)といえる。

(3)本件アニメは、本件漫画の登場人物の作画を忠実にアニメ化することによって「有形的に再製」したものといえるから、本件アニメのDVDの製造は、本件漫画の「複製」(21条、2条1項15号)にあたる。そして、本件アニメのDVDの販売は、本件漫画の「複製物」を「公衆」に「譲渡」したものといえる(26条の2第1項)。

(4)したがって、Aは、二次的著作物である本件漫画の「原著作物の著作者」として、本件漫画の著作者であるBと「同一の種類の権利」を有するから(28条)、Cに対し、複製権侵害(21条)及び譲渡権侵害(26条の2第1項)を理由に、本件アニメDVDの製造・販売の差止めを請求することができる(112条1項)。

2.Cの反論

(1)確かに、本件アニメDVDの製造・販売は、本件漫画の「複製」及び「公衆」に対する「譲渡」に該当する。

(2)しかし、本件アニメは、本件漫画の登場人物の作画のみを利用したものであり、物語の展開は本件小説には全く描かれていない独自の内容であった。すなわち、本件アニメにおいて有形的に再製されているのは、本件漫画によって初めて付加された創作的部分のみであって、「小説の著作物」である本件小説の創作性は、本件アニメには一切現れていない。したがって、このような、二次的著作物によって新たに付加された部分のみの利用については、28条を介した原著作物の著作者の権利は及ばないと解すべきである。

(3)よって、Aは、28条を介した複製権・譲渡権を、本件アニメDVDの製造・販売について行使することはできない。

3.双方の主張の妥当性

(1)確かに、28条の文言上は原著作物の著作者が行使できる権利の範囲に限定はなく、裁判例にも「新たに付加された部分」のみの利用であっても原著作物の著作者の28条を介した権利が及ぶ旨判示したとみられるものがある。

(2)しかし、かかる解釈は創作性の保護という著作権法の大原則から乖離するものであって、他人による創作性の付加という偶然の事情で原著作物の著作者の権利が際限なく拡大することになるので妥当でない。原著作物の著作者の創作性が及ばない部分についてはもはや保護すべき実質を欠くというべきである。したがって、Cの主張する通り、新たに付加された部分のみの利用については原著作物の著作権者の権利は及ばない。

(3)よって、Aは、28条を介した複製権・譲渡権を、本件アニメDVDの製造・販売について行使することはできず、Aの主張する差止請求は認められない。

 

第2 設問2について

1.Bの主張

(1)前述のように、本件漫画は、本件小説に新たな創作性を付加して「翻案」したものであるから、本件小説の「二次的著作物」(2条1項11号)として、「著作物」(2条1項1号)にあたる。また、本件漫画中の登場人物であるαのデザインは、Bの「思想又は感情を創作的に表現」したものであって、「美術…の範囲」に属するものであるから、本件漫画とは独立して「著作物」にあたる。

 本件漫画及びαのデザインは、いずれも「美術の著作物」(10条1項4号)であり、Bが「著作者」として、著作権を享有する(2条1項2号、17条1項)。

(2)αが描かれた原画を掲載した本件パンフレットはαの「複製物」、本件漫画の1コマが印刷された本件チケットは本件漫画の「複製物」にあたり、これらの販売は「公衆」への「譲渡」(26条の2第1項)に該当する。

(3)以上により、BはDに対し、本件漫画及びαの譲渡権侵害(26条の2第1項)を理由に、本件パンフレット及び本件チケットの販売の差止めを請求することができる(112条1項)。

2.Dの反論

(1)本件パンフレットの販売について

 本件パンフレットの作成は、47条の権利制限規定により適法であるから、その販売も47条の10本文によって適法であり、譲渡権侵害にはあたらない。

(2)本件チケットの販売について

 本件チケットの作成は、32条の適法引用として適法であるから、その販売も47条の10本文によって適法であり、譲渡権侵害にはあたらない。

3.双方の主張の妥当性

(1)本件パンフレットの販売について

 本件イベントは、所有者の承諾を得て本件漫画の原画を展示するというものであるが、これは45条1項により、Bの展示権(25条)を侵害することなく行うことができるものである。そして、本件パンフレットは、原画の解説を付し本件イベント会場において観覧者に販売されるものであるから、「観覧者のため」の「小冊子」にあたり、47条の要件を充足するようにも思える。

 しかし、47条の権利制限規定の根拠は、観覧者への解説を目的とした小冊子に掲載するためであれば著作権者への経済的打撃は軽微なものにとどまるという点にあるところ、小冊子自体を「販売」する場合には、それによって当該著作物への需要に代替し、収益可能性を奪う点で、著作権者への経済的打撃はもはや軽微であるとはいえない。

 したがって、販売に供する本件パンフレットは、47条の「小冊子」には該当しないというべきである。よって、47条の10本文の適用はなく、Bの主張通り譲渡権侵害が成立する。

(2)本件チケットの販売について

 32条の適法引用に該当するためには、そもそも「引用」に該当しなければならない。「引用」に該当するか否かは、①主従関係性と②明瞭区別性により判断される。

 この点、①主従関係性は、単に量的な問題だけでなく、被引用部分が引用部分を補足説明・批判・例証・参考資料の提供をするなど、その内容においても従たる関係にあることを要する。本件チケットは、本件漫画の印刷部分を除けば、本件イベントの名称・日時場所が記載されているにすぎず、その内容面において本件漫画に従たる関係にあるものではないから、主従関係性が認められない。

 したがって、32条・47条の10本文の適用はなく、Bの主張通り譲渡権侵害が成立する。

 

第3 設問3について

1.E及びBの主張

(1)本件フィギュアは、「美術の著作物」として「著作物」に該当し(2条1項1号、10条1項4号)、Eが「著作者」として著作権を享有する(2条1項2号、17条1項)。

(2)本件フィギュアを小型化したプラスチック製人形の製造は、本件フィギュア及びαの「複製」にあたり、その提供は「公衆」への「譲渡」にあたる。

(3)したがって、E及びBは、Fに対し、複製権侵害(21条)及び譲渡権侵害(26条の2第1項)を理由に、上記製造及び提供の差止めを請求する事ができる(112条1項)。

2.Fの反論

 (途中答案)

 

【感想】
特許法(第1問)は、概ね論点自体を拾うことはできたように思うが、設問3で79条の2に言及できなかったのは痛いミスである。

著作権法(第2問)は例年と異なり、主張→反論→検討という憲法のような問題形式になっていたため、少し戸惑った。問題自体は難しくなく処理勝負になると思ったが、時間配分・紙幅配分を誤り、途中答案という結果になってしまった。

【平成25年司法試験再現答案】刑事系第2問 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

〔設問1〕

第1 逮捕①及び逮捕②の適法性について

1.準現行犯逮捕の要件

(1)本件の逮捕①及び逮捕②は、いずれも令状を得ないでなされたものであるが、刑事訴訟法(以下、省略する。)212条2項の要件を満たせば、甲・乙が「現行犯人」とみなされる結果、213条により、適法な逮捕となる。

(2)212条2項の要件は、①「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる」こと、すなわち犯罪と犯人の明白性、②212条2項各号のいずれかに該当すること、③犯行と逮捕行為との相当程度に時間的場所的接着性、④「逮捕の必要」(199条2項但書参照)があること、の4つである。

2.逮捕①の適法性について

(1)①犯罪と犯人の明白性は、逮捕者が犯行を現認した場合か、被逮捕者が当該犯行の犯人であることが逮捕者において外部的事情から直接明白に覚知できる場合にのみ認められ、単に目撃証言があるというだけでは認められない。

 これを本件についてみると、まず、甲は、Wの目撃証言においてVを包丁で刺したとされる「男1」と「身長約190センチメートル、痩せ型、20歳くらい、上下とも青色の着衣、長髪」という点において、風貌が完全に一致している。また、包丁で胸を突き刺すという犯行態様からして、犯人に着衣には返り血が付着している可能性が極めて高いと思われるところ、甲の着衣及び靴には一見して血と分かる赤い液体が付着していた。さらに、甲と一緒にいた乙が、甲がVを刺したと供述しているところ、その犯行態様や時間・場所はWの証言と完全に一致しており、信用性は極めて高い。

 以上のことからすれば、甲が本件犯行の犯人であることが、Pにおいて直接明白に覚知できるに至っていたということができるから、犯行と犯人の明白性が認められる(①)。

(2)前述のように、甲の着衣及び靴には血液が付着していたから、212条2項3号の「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき」に該当する。この点、血液の付着だけでは「顕著な」証跡とまではいえないとも思われるが、甲の風貌が、Wの証言における「男1」と完全に一致していること、乙が本件犯行は甲が行った旨供述しており、その内容がWの証言と完全に一致していることからすれば、血液はVのものであり、本件犯行によって付着したことが明らかになったといえるから、「顕著な」証跡ということができる(②)。

(3)甲は、本件犯行から約30分後、本件犯行現場であるH公園から北西方向に800メートル離れた路上で逮捕されている。甲がPらから呼び止められた時点では本件犯行から20分しか経過していなかったこと、北西方向に逃げたとのWの証言通り、H公園の北西に位置する地点で発見されていることからすれば、犯行と逮捕との相当程度の時間的場所的接着性を認めてよいと考える(③)。

(4)本件ににおいて、特に逮捕の必要性を阻却する事情はみられない。むしろ、甲がPらの質問に答えず、血液の付着につき合理的な説明をしていないことからすれば、逮捕の必要性は高かったといえる(④)。

(5)以上により、逮捕①は212条2項の要件を満たしているから、213条により適法である。

3.逮捕②の適法性について

(1)まず、乙は、Wの目撃証言における「男1」に「やれ。」命令した「男2」と「身長約170センチメートル、小太り、30歳くらい、上が白色の着衣、下が黒色の着衣、短髪」という点で、その風貌が完全に一致している。また、乙は自ら甲に対してVの殺害を依頼し「やれ。」と命令したこと、それに従って甲がVを包丁で2回突き刺したことを供述しており、その内容はWの証言と完全に一致している。そして、一緒にいた甲の着衣及び靴には、明らかに上記犯行の際に浴びたと認められる血液が付着していた。

 以上のことからすれば、甲との関係のみならず、乙との関係でも、乙が本件犯行の共犯であることがPにおいて直接明白に覚知できすることができる情況にあったといえるから、犯罪と犯人の明白性が認められる(①)。

(2)乙には、甲とは異なり、着衣等に血液が付着しているといった事情はない。

 もっとも、本件逮捕②における乙の被疑事実は、「甲と共謀の上、Vを殺害した」との殺人罪の共謀共同正犯であると思われるから、実行犯ではない乙に直接「犯罪の顕著な証跡」(212条2項3号)が見られないのはむしろ当然である。そこで、このような共犯の場合には、被逮捕者自信に「犯罪の顕著な証跡」が見られなくても、共犯者についてそれが認められれば212条2項3号に該当すると解すべきである。

 したがって、逮捕①で述べたとおり、甲の着衣及び靴に血液が付着していることは甲との関係で「顕著な証跡」といえるから、共謀共同正犯者である乙についても「顕著な証跡」に該当する(②)。

(3)逮捕①で述べたのと同様に、犯行と逮捕との相当程度の時間的場所的接着性は認められる(③)。

(4)本件ににおいて、特に逮捕の必要性を阻却する事情はみられないから、逮捕の必要性は認められる(④)。

(5)以上により、逮捕②も212条2項の要件を満たしているから、213条により適法となる。

 

第2 差押えの適法性について

1.逮捕に伴う捜索・差押えの要件

(1)本件差押えは、逮捕①に伴う差押え(220条1項2号、同3項)として行われたものと思われるところ、逮捕①は適法になされているから「現行犯人を逮捕する場合」(220条1項柱書)の要件は充足している。では、「逮捕の現場」(22条1項2号)における差押えといえるか。

(2)220条1項2号が逮捕に伴う無令状の捜索・差押えを認めているのは、逮捕の現場には被疑事実に関する証拠物が存在する蓋然性が高いことを前提に、その隠滅を防止し保全する緊急の必要性があるからである(緊急処分説)。

(3)このような緊急処分説からすれば、捜索対象が「場所」ではなく被疑者の「身体」である場合、被疑者がどこにいようとも上記の趣旨はあてはまり、「逮捕の現場」に当たるとも思える。

 しかし、このような解釈は「逮捕の現場」という文言上の限定を無意味にするから妥当でない。そこで、逮捕した現場で捜索・差押えをすることが困難な事情のある場合には、処分の円滑な実施のため、最寄りの適切な場所に移動して行う場合に限り、「逮捕の現場」における捜索・差押えとして許容されると解すべきである。

(4)これを本件についてみると、逮捕①を行った路上では、甲が暴れ始め交通の妨げになるなど、その場において甲の身体着衣につき捜索を行うことが困難な事情があった。そこで、甲を最寄りの300メートル離れたI交番に連行して捜索を行うことも適法と解されるところ、本件差押えの対象物である携帯電話は、その移動中に甲が落としたものであった。

 すなわち、I交番に連行して行う捜索は「逮捕の現場」におけるものとして適法であり、その捜索がなされていれば上記携帯電話は適法に発見され、差押えられていたはずのものである。

 したがって、それよりも前の時点においてたまたま携帯電話が発見され、差押えられたとしても、「逮捕の現場」における差押えと同視することができるというべきである。

(5)以上により、本件差押えは「逮捕の現場」における差押えといえる。

3.携帯電話の記録内容を確認することなく差押えたことの適法性

(1)逮捕に伴う差押えとして差押えることができるのは、当該逮捕の基礎となった被疑事実に関連する証拠物に限られる。Pは携帯電話の記録内容を閲覧するなどして本件犯行との関連性を確認することなく本件差押えに及んでいるが、かかる差押えは適法か。

(2)この点、携帯電話等の電子機器に記録された電子データは、外部からの可視性・可読性を欠いいており、記録内容の確認には一定の装置を機器・操作が必要となる反面、その改ざんや消去は極めて容易である。そこで、このような電子データが記録された機器については、①被疑事実に関連する情報が記録されていると認められる合理的理由があり、②現場で被疑事実との関連性を確認することが困難であり、③罪証隠滅のおそれが認められる場合には、内容を確認することなくこれを差押えることも適法と解すべきである。

(3)これを本件についてみると、乙は、今朝甲に対して、V殺害に対する報酬金額を打診するメールを携帯電話で送った旨供述し、その送信メールを示している。かかるメールは、本件犯行における甲と乙の共謀を基礎づける重要な証拠であるところ、通常、携帯電話からのメール送信であれば、同じく携帯電話に向けて送ったものと考えられるから、甲が所持していた携帯電話に上記メールを受信・開封したことが記録されている蓋然性が高かったといえる(①)。

 また、Pは、捜索を拒んで暴れたりしていた甲がたまたま落とした携帯電話を、とっさに拾って差し押さえたものであり、同時に甲が携帯電話を拾おうと手を伸ばしていたことに鑑みると、甲によって上記メールが削除されるおそれがあり(③)、携帯電話の内容を確認している時間的余裕はなかったものといえる(②)。

(4)したがって、Pが携帯電話の内容を確認することなくこれを差し押さえたことは適法である。

4.以上により、本件差押えは適法である。

 

〔設問2〕 

第1 実況見分調書全体の証拠能力

 本件実況見分調書は、「公判期日における供述に代」わる書面であるから、320条1項が適用され、原則として証拠能力が適用される(伝聞法則)。

 もっとも、実況見分は任意捜査としておこなわれる「検証」といえるから、実況見分調書には321条3項の準用が認められる。したがって、作成者であるPが尋問を受け、作成の真正及び内容の真正について供述すれば、証拠能力が認められる(321条3項)。

 

第2 実況見分調書中別紙1部分の証拠能力

1 問題の所在

(1)実況見分調書全体の証拠能力が認められたとしても、それに添付された別紙1および別紙2につき証拠能力が認められるかは別論である。すなわち、別紙1及び別紙2部分が伝聞証拠として別途伝聞法則(320条1項)の適用を受けるかが問題となる。

(2)320条1項が規定する伝聞法則の趣旨は、反対尋問・供述態度の観察・偽証罪の告知等によって知覚・表現・記憶・叙述の各過程に誤りが介入していないかをチェックすることができない公判廷外の供述証拠の証拠能力を原則として否定する点にある。したがって、要証事実との関係で供述内容の真実性を立証するために用いられるものだけが伝聞法則の適用を受けることになる。

2 説明部分の証拠能力

(1)別紙1は、司法警察員2名が犯行状況を再現した再現写真部分とWがそれを説明した部分から成っている。

(2)説明部分における「犯人の一人が、被害者に対し、右手に持った包丁を胸に突き刺した」とのWの供述について、検察官の立証趣旨が「犯行状況」とされていること、甲が本件殺人について一貫して黙秘していることに鑑みると、その要証事実は「甲が、Vの胸に包丁を突き刺したこと」であると解される。この要証事実は、上記Wの供述の内容通りの事実が本当にあったことが立証されて初めて推認が可能となる。したがって、説明部分は伝聞法則の適用を受ける。

(3)説明部分は、Wの供述録取書の性質を有するものとして321条1項3号の伝聞例外が適用されうるが、そもそもWの「署名若しくは押印」(321条1項柱書)がない以上、原則通り証拠能力は認められない。

3 再現写真部分の証拠力

(1)写真部分は、写真ではあるものの、Wの説明に基づく再現であるという点で、Wの知覚・記憶等に誤りがないかをチェックする必要があるので、「行動による供述」として供述証拠にあたる。そして、写真部分についても、要証事実は説明部分と同様、甲が本件殺人を行ったことであるから、その内容の真実性が問題となるものとして伝聞法則の適用を受ける。 

(2)写真部分もWの供述録取書としての性質を有しているが、録取の過程については機械的正確性が担保されているので、「署名若しくは押印」は不要である。

 もっとも、Wは存命であり、その他の供述不能事由も認められないので、321条1項3号の要件を満たさず、証拠能力は認められない。

 

第3 実況見分調書中別紙2部分の証拠能力

1 説明部分の証拠能力

(1)別紙2も再現写真部分とWの説明部分から成っている。

(2)説明部分について、その要証事実は、立証趣旨の通り「Wが犯行を目撃することが可能であったこと」と考えられる。この要証事実は、Wが「私が…立っていた場所はここです。」と指示し、その位置において「犯行状況…は、私が…立っていた位置から十分に見ることができます。」と説明したこと自体から推認が可能である。すなわち、上記Wの説明内容の真実性を問題にすることなく、説明したことそれ自体から推認が可能である。

(3)したがって、説明部分には独立して伝聞法則の適用はなく、実況見分調書を一体のものとして、調書全体が321条3項の要件を満たす限り、証拠能力が認められる。

2 再現写真部分の証拠能力

(1)再現写真部分も前述のとおり供述証拠にあたるが、この証拠の要証事実である「Wが犯行を目撃することが可能であったこと」は、説明部分と同様、その内容の真実性を問題とすることなく、写真に写された状況そのものから推認が可能である。

(2)したがって、伝聞法則の適用はなく、実況見分調書と一体のものとして、調書全体が321条3項の要件を満たす限り、証拠能力が認められる。

以上


【感想】 

設問1の逮捕①②の適法性については非常に難しかったが、乙が甲の犯行を供述している点と、乙と甲が共犯関係にある点をどのように考慮するかがポイントになると思った。差押えの適法性についても考えたことのない問題であったが、220条1項2号の趣旨から丁寧に論じるよう心がけた。加えて、携帯電話の中身を確認することなく差押えた点も問題になると思った。

設問2については、正直何を聞きたいのかがわからなかった。最決平成17.9.27に準拠して論じれば足りるように感じたが、本当にそれだけでよいのか不安になった。