【書評】中村宏之著『世界を切り拓くビジネス・ローヤー ー西村あさひ法律事務所の挑戦』

書店で見かけたので、さっそく購入。ざっと通読しました。

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ベテラン新聞記者の方が、西村あさひ法律事務所(以下「NA」)の弁護士12名+秘書・パラリーガルへのインタビューを通じて「ビジネス・ローヤー」の実態に迫るという、(少なくとも私の知る限り)今までありそうでなかった書籍です。

 

12名の弁護士のインタビューはどれも非常に面白いのですが、その中でも特に印象に残ったのが、NAのマネージングパートナー・保坂雅樹弁護士のインタビューです。

 2008年にリーマン・ショックが起きて、2009〜10年は日本の我々のような法律事務所の業務もかなり停滞したというのが実感でした。また、企業側のリーガルフィー(弁護士報酬)の感覚が世界規模で大きく様変わりしました。法律や経済取引自体は常に複雑化し、リーガルニーズは増えているといえるかも知れませんが、弁護士事務所に支払うコストに関しては非常にシビアになっています。これは全世界的に法律事務所が格闘している課題です。特にリーマン・ショック後は顕著です。また大きな流れとして、企業内弁護士の増加が欧米では進んでいて、外部の弁護士との棲み分けの問題も出ています。日本でも企業内弁護士は増えています。少なくとも現時点では直ちに法律事務所の脅威になるという段階ではないと思っていますが、時間の問題なのかもしれません。

 そのほかに世界的に議論されているは、従来法律事務所でなかったプレーヤー、典型的なのは会計事務所などが法律事務所をつくるといった動きです。日本においても国際的な大手会計事務所が日本に連携する弁護士事務所法人をつくって、実際に活動を始めています。そういう意味でプレーヤーの多極化や拡大はあると思います。

 もっと根本的なのは、やはり日本の人口の減少とそれに連動する経済の縮小問題です。日本で人口が増えて、経済規模も増えていけば、大局的に見ればリーガルマーケットも拡大するはずですが、その流れとは逆になっている。(本書16〜18頁)

 

同氏は、リーマン・ショック以降のリーガルマーケットにおける大きな変化として、①リーガルフィーに対する企業側の感覚の変化、②新たな競合プレーヤーの出現(企業内弁護士・大手会計事務所)、③人口減少に伴う日本経済の縮小の3つを挙げています。

 

現状だけを見れば、①日系事務所のフィーはいわゆる外資系の法律事務所に比べればまだまだ安いですし、②企業内弁護士も会計事務所系列の法律事務所も、まだまだ日系の渉外法律事務所に質的にも人数的にも遠く及びませんし、③日本企業は手元資金を持て余しているのでしばらくはアウトバウンド案件の需要が続くでしょうから、直ちに日系渉外法律事務所が窮地に立たされるという状況にはないとは思います。

 

しかし、長期的に見れば、 上記の3つは必ず日系の渉外法律事務所を揺るがす脅威になるだろうなと、私のような若造の肌感覚としても感じているところです。個人としても、組織としても(現状私は組織を率いる立場にはありませんが笑)、10年後・20年後を見据えた戦略を考えていかなくてはなりませんね。。。

 

さて、もう一つ心に響いたのが、南賢一弁護士のインタビュー中のこの一節。

私は、師匠の松嶋英機弁護士から、入所当時、①若いうちはまず正論を考えろ、それを突き詰めたうえで解決策を考えろ。②細かいことをいちいち相談するな。本当に困ったときは相談に来い。そのときは責任を持って解決するから、それまでは自分で考え抜いて解決しろ。③地道にまじめにやっていれば、そのうち自然にその業界で有数の人間になっているものだ。あせることなく一所懸命まじめに案件に取り組め。④債権者は敵ではない。債権者をはじめとするクライアント以外の利害関係人の立場にも配慮して物事を考え、全体感を持って解決策を模索せよ、と言われました。(本書127頁)

 

うーん、いい言葉ですね。松嶋先生といえば、NAとして一つになる前のときわ総合法律事務所のファウンダーであり、倒産法分野のパイオニア的な先生ですが、やはり重鎮の先生の言葉には重みと含蓄があります。(NAの所属ではありませんが)私も、この言葉を肝に銘じて日々の業務に励んで行きたいと思いました。

 

めちゃめちゃざっくりですが、以上です。

ちょうど大手法律事務所の個別訪問やサマクラの募集が始まる時期ですので、ビジネスローヤーを目指す司法試験受験生やロースクール生の方は、本書を読まれてみてはいかがでしょうか。

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