【平成25年司法試験再現答案】公法系第1問 ※旧ブログ記事転載

再現率:80%くらい

〔設問1〕

第1 本件デモ行進不許可処分に対する憲法上の主張

1.法令違憲の主張

(1)まず、Aは、B県集団運動に関する条例(以下、「本件デモ条例」という。)1条及び3条1項4号が、Aらのデモ行進を行う自由を侵害しており、憲法21条1項に違反するとの主張をする。

(2)Aらが、B市の幹線道路において「格差の是正」訴えるデモ行進を行う自由は、憲法21条1項の集会の自由の一内容として保障される。

 なぜなら、上記デモ行進は、複数の者が一定の目的のために一定の場所に集まって行うコミュニケーション活動である点で「集会」に該当するだけでなく、「格差の是正」に関する意見を表明することで個人の人格的発展に寄与し(自己実現の価値)、民主政治への参加と寄与を可能にする(自己統治の価値)からである。

(3)本件デモ条例1条は、道路等の公共の場所におけるデモ行進につき許可を受けなければならないとしている点で、上記デモ行進の自由を制約している。

(4)このような許可制は、一般的には事前かつ強度の制約として原則として憲法21条1項に違反するものであるが、本件デモ条例は不許可事由に該当しない限り許可しなければならないとしており(3条)、実質的には届出制と同視できるから、許可制を定めること自体は憲法21条1項に違反するものではない。もっとも、精神的自由の一つである集会の自由の重要性と、事前規制たる許可制の制約の強さに鑑み、その許可条件の合憲性は厳格に審査されなければならない。

 したがって、3条1項各号が定める許可条件は、①目的が極めて重要であり、②手段が目的達成のために必要最小限度にとどまるものでない限り、憲法21条1項に反し違憲であると解する。

(5)本件デモ条例3条1項4号は、不許可事由として、B県住民投票に関する条例(以下、「本件住民投票条例」という。)14条1項2号及び3号に該当する行為、すなわち、「平穏な生活環境を害する行為」「商業活動に支障を来す行為」がなされることが明らかであることを挙げている。

 同号の目的は、周辺住民の「平穏な生活環境」及び「商業活動」の保護にあるものと解されるが、そもそもこのような利益は抽象的に過ぎ、極めて重要な目的とまではいえない(①)。また、このような目的を達成するためには、不許可処分によらずとも、警察に出動を要請することによっても達成が可能であるから、必要最小限度の制約ともいえない(②)。

(6)以上により、本件デモ条例3条1項4号の許可条件は、Aらのデモ行進の自由を侵害するものとして、憲法21条1項に反し違憲である。

2.処分違憲の主張

(1)本件デモ条例3条1項4号が定める許可条件自体が憲法21条1項に反しないとしても、前に述べた集会の自由の重要性に鑑み、その許可条件は厳格に解すべきである。すなわち、3条1項4号の不許可事由は、「平穏な生活環境」ないし「商業活動」が害される明らかな差し迫った危険が具体的に認められる場合に限って充足すると解すべきである。

(2)これを本件についてみると、Aらが計画していた3回目のデモ行進は、1回目・2回目と同様、平和的な態様で行われることが予定されていたものであり、現に、1回目のデモ行進の際は、Aらはデモ参加者らに対し拡声器を使用しないこと、ビラ等は配布せずにゴミを捨てないようにすることを徹底し、若干の苦情があったこと以外は特に問題を起こすことはなかった。2回目のデモ行進の際は、シュプレヒコールや交通渋滞が生じ、騒音被害を訴える苦情や飲食店に売上が減少したことに対する苦情が多く寄せられているものの、これらの被害は、警察に出動要請をして交通整理等の軽微をしてもらうことに回避が可能なものであった。

 したがって、2回目の同様の場所・態様・予定参加人数で行われる3回目のデモ行進においても、「平穏な生活環境」や「商業活動」に対する被害は未だ回避可能なものにとどまることが予想されるから、「平穏な生活環境」「商業活動」が害される明らかな差し迫った危険が具体的に認められたとまではいえない。

(3)よって、本件不許可処分は、本件デモ条例3条1項4号を充足しないにもかかわらずなされたものであるから、Aらの集会の自由を不当に侵害するものとして、憲法21条1項に反し違憲である。

 

第2 本件教室使用不許可処分に対する憲法上の主張

1.法令違憲の主張

(1)Aらが、B県立大学の教室で「格差問題と憲法」というテーマの講演会の開催を行う自由も、憲法21条1項の集会の自由の一内容として保障される。

 なぜなら、講演会も複数の者が一定の場所において行うコミュニケーション活動である点で「集会」といえるし、格差問題に関する見識を深め、近く行われる住民投票における意思決定の前提をなすという点で、自己実現の価値・自己統治の価値を有するからである。

(2)B県立大学教室使用規則(以下、「本件規則」という。)では、政治目的での教室使用を禁止している点で、かかる集会の自由を制約するものである。

(3)上記の制約は、政治目的での教室使用を制約する点で表現内容に着目した制約である。かかる表現内容規制は公権力の恣意的運用によって思想の自由市場を歪めるおそれがあるため、厳格な審査が必要となる。すなわち、①目的が極めて重要であり、②手段が目的達成のために必要最小限度にとどまるものでない限り、憲法21条1項に反し違憲であると解する。

(4)本件規則の目的は、研究・教育の場にふさわしい大学の秩序の維持にあると解されるところ、とりわけ法学部においては、政治目的のために集会を行うことも重要な研究・教育の場といえるから、上記目的は極めて重要であるとまではいえない(①)。また、政治目的であっても大学の秩序維持に影響を与えない平和的な態様の集会もありうるから、政治目的でありさえすれば一律に教室使用を禁じている点で、必要最小限度の制約とはいえない(②)。

(5)以上により、本件規則は、Aらの集会の自由を侵害するものとして、憲法21条1項に反し違憲である。

2.処分違憲の主張

(1)仮に本件規則そのものが憲法21条1項に違反しないとしても、それに基づいてなされた本件不許可処分は違憲である。

(2)すなわち、B県立大学は、政治目的であっても、ゼミ活動目的の申請であって、かつ、ゼミの担当教授が承認していれば教室の使用を許可するという運用を行っていた(以下、「本件運用」という。)ところ、Aらの申請はCゼミの活動としてなされたものであり、C教授の承認も得ていた。また、同様に格差問題をテーマとした講演会であるにもかかわらず、経済学部の学生が行った教室使用申請は許可され、Aらの申請は不許可とされている。

 これらの事情に鑑みると、本件不許可処分は、社会福祉関係費の削減につき知事と県議会が激しく対立していたという状況下で、デモ行進をはじめとするAらの活動が近く行われる「社会福祉関係費の削減の是非」に関する住民投票に影響を与えることを憂慮したB県知事が、Aらの活動を封じ込めようという意図の下に行ったものといえる。このような見解差別的な規制は、まさに公権力の恣意によって思想の自由市場を歪めるものであるから、憲法21条1項に反し許されないというべきである。

(3)以上により、本件不許可処分は憲法21条1項に反し違憲である。

 

〔設問2〕

第1 本件デモ行進不許可処分に対するB県側の反論及び自己の見解

1.法令違憲の主張について

(1)B県側の反論

 本件デモ条例3条1項4号の許可条件は、Aらのデモ行進の自由を制約するものであるが、限定解釈することが可能であり、憲法21条1項に反するものではない。

(2)自己の見解

 B県の主張するとおり、本件デモ条例3条1項4号の許可条件である、「平穏な生活環境を害する行為」「商業活動に支障を来す行為」は、それぞれ「平穏な生活環境」又は「商業活動」が害される明らかな差し迫った危険が具体的に認められる場合と限定して解釈することが可能である。そして、このような解釈は、通常の判断能力を有する一般人にとっても可能であり、不意打ちや萎縮的効果をもたらすものでもない。

 このように限定して解釈される限り、規制目的は具体的な「平穏な生活環境」ないし「商業活動」として極めて重要なものといえるし(①)、警察の警備等によっても回避しきれない具体的な被害のおそれを防止するためには、不許可とすることも必要最小限度の制約といえる(②)。

 したがって、本件デモ条例3条1項4号の許可条件は、憲法21条1項に反するものではない。

2,処分違憲の主張について

(1)B県側の反論

 Aらが行った2回目のデモにおいては、交通渋滞やシュプレヒコールの発生により、交通事故への不安や騒音被害を訴える苦情や、飲食店の売上減少に対する苦情が多く寄せられていた。したがって、これと同規模で行われる予定であった3回目のデモ行進においても、このような被害の発生が具体的に予見される状況にあったから、本件デモ条例3条1項4号の事由が認められる。よって、本件不許可処分は憲法21条1項に反するものではない。

(2)自己の見解

 確かに、B県の主張するように、2回目のデモについては、周辺住民から具体的な騒音被害や飲食店の売上減少の被害が生じていた。しかし、このような被害は、幹線道路における2000人規模のデモ行進には通常付随する程度のものといえ、暴力や意図的な交通妨害にまで及ぶものではない。また、3回目のデモ行進も同規模のものであって、生じる被害も2回目のデモと同程度のものであることが予想されるところ、上記の程度の被害であれば、条件付きの許可によりAら主導者に対し、参加者に交通妨害等をしないよう指導することを義務付けたり、警察に出動要請して交通整理や警備を行うことによっても十分回避することが可能である。

 B県がこれらの措置を講ずることなく本件不許可処分を行ったのは、むしろ、社会福祉関係費の削減につき知事と県議会が激しく対立していたという状況下で、Aらのデモ行進が「社会福祉関係費の削減の是非」に関する住民投票に影響を与えることを憂慮し、Aらの活動を封じ込めようという意図の下に行ったものといえる。

 したがって、本件事情の下では「平穏な生活環境」「商業活動」が害される明らかな差し迫った危険が具体的に認められたとまではいえず、本件デモ条例3条1項4号を充足しないから、本件不許可処分は憲法21条1項に反し違憲である。

 

第2 本件教室使用不許可処分に対する憲法上の反論及び自己の見解

1.法令違憲の主張について

(1)B県側の反論

 そもそも、憲法21条1項の集会の自由は、国の施設を使用させることを請求する権利まで保障するものではないから、本件規則はAらの集会の自由を制約するものではない。また、大学には大学の自治が保障されているから、政治目的の使用を一律に禁止したとしても憲法21条1項に反するものではない。

(2)自己の見解

  ア.集会の自由の法的性質について

 憲法21条が保障する集会の自由は、自由権すなわち国家に対する不作為請求権であって、当然に作為請求権を含むものではない。したがって、この限りでB県の反論は正当である。

 しかし、B県立大学の教室は、普通地方公共団体であるB権が管理しているものであるから、地方自治法244条1項にいう「公の施設」に該当する。そして、「公の施設」については「正当な理由」のない限り利用を拒むことができないとされているから(同条2項)、「公の施設」における集会については、当該施設の利用を請求することも憲法21条1項の集会の自由に含まれると解すべきである。

 したがって、この点に関するB県の反論は妥当でなく、本件規則はAらの集会の自由を制約するものである。

  イ.大学の自治との関係について

 大学の自治は、学問の自由を保障を担保するための制度的保障として、憲法23条を根拠に認められる。もっとも、大学の自治が認められるのは、研究・教育のための秩序維持の限度に限られる。

 これを本件についてみると、政治目的による集会は、一般的には研究・教育にふさわしい大学の環境を害するものといえるが、殊に法学部においては、民主制の過程を実体験するという点でむしろ研究・教育に資する側面がある。したがって、大学の自治を考慮しても、本件規則の規制目的は極めて重要であるとまではいえない(①)。また、政治目的であっても大学の秩序維持に影響を与えない平和的な態様の集会もありうるから、政治目的の教室使用一律に禁じている点で、必要最小限度の制約ともいえない(②)。

 以上により、本件規則は、21条1項に反し違憲である。

2.処分違憲の主張について

(1)B県側の反論

 本件運用は事実上のものにとどまるから、本件講演会が政治目的の集会であることが明らかである以上、本件不許可処分は21条1項に反するものではない。

(2)自己の見解

 Aが主張する通り、本件運用の存在及び同様のテーマである経済学部の学生による講演会は許可されている事実に鑑みると、本件不許可処分は、デモ行進等のAらの活動が住民投票に与える影響を憂慮したB県知事が、Aらの活動を封じ込めようという意図の下に行ったものといえる。このような見解差別的な規制は、正当な理由のない恣意的な規制に他ならないから、憲法21条1項に反し許されないというべきである。よって、本件不許可処分は憲法21条1項に反し違憲である。

以上

 

【感想】

集会の自由(デモ)はヤマを張っていた論点だったので、ラッキーと思った。大枠として、道路における集会と公共の施設における集会との違いを指摘できるかがポイントだと思い、ケースブック憲法有斐閣)のUNIT11の問1が想起された。設問1はそれなりに書けたものの、設問2で時間不足ぎみになってしまったのが残念である。