【平成25年司法試験再現答案】公法系第2問 ※旧ブログ記事転載

再現率:85%くらい

〔設問1〕

第1 「処分」の定義

 取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

 以下では、C県の主張の意味を明らかにした上で、その当否を吟味しつつ、本件認可の法的効果を検討することにより、本件認可の処分性を論じることとする。

 

第2 土地区画整理組合の法的性格に関するC県の主張と検討

1.C県の主張

(1)C県は、本件組合は、行政主体としての法的性格を与えられていると主張して、本件認可の処分性を否定している。

 すなわち、土地区画整理法(以下、「法」という。)3条4項は、都道府県又は市町村が、土地区画整理事業を施行することができると規定しているところ、同2項は、土地区画整理組合にも、土地区画整理事業を施行することができる地位を与えているから、法は、土地区画整理組合を都道府県等の行政主体と同視しているとみることができる。とすれば、本件認可は、行政主体であるC県が、同じく行政主体である本件組合に対して行ったものであって、行政内部の行為にすぎず、「直接国民」に対して行った行為ではないことになる。したがって、本件認可は「処分」に該当しない。

 C県の上記主張は、このように理解することができる。

(2)また、C県は、下級行政機関である本件組合に対する本件認可は、処分に該当しないとも主張している。

 これは、本件組合が都道府県等と同様に土地区画整理事業を施行することができる地位を有していることを前提とした上で(法3条2項)、都道府県知事の組合に対する勧告等の権限(法123条1項)や監督権限(125条1項)が認められていることを根拠に、本件組合をC県の下級行政機関であると捉え、したがって、本件認可は行政内部の行為にすぎず、やはり「直接国民」に対して行った行為とはいえないと主張するものである。

2.C県の主張の当否及び本件認可の法的効果

(1)まず、本件組合が行政主体としての法的性格を与えられているとのC県の主張は、妥当でない。なぜなら、本件組合が土地区画整理事業を施行することができる地位を与えられている(法3条2項)とはいえ、都道府県知事の組合に対する勧告等の権限(法123条1項)及び監督権限(125条1項)が定められていることから、法は、組合を都道府県等とは独立した行政主体としての地位を与える趣旨とまではいえないからである。

(2)次に、本件組合が下級行政機関たる法的性格を有するというC県の主張は、上記法3条2項及び123条1項・125条1項から、この限りでは正しいといえるが、だからといって本件認可の処分性が直ちに否定されるわけではない。

 本件認可の直接の名あて人が本件組合であるとしても、その本件組合は、Aを含む施行地区内の所有権者又は借地権者の全員から構成されているものであって、本件認可によってAら組合員は新設された賦課金の支払義務が生じることになる(本件定款6条2号、法40条1項)。そして、この賦課金の支払義務は、滞納処分という強制手段(法41条)によって担保された具体的義務であるといえる。

 したがって、本件認可によって、組合の構成員である個々の私人に対して、賦課金の支払義務という個別具体的な法効果が生じるといえるから、本件認可には、「直接国民」に対する具体的法効果を有するものといえる。

 

第3 本件認可の法的性格に関するC県の主張と検討

1.C県の主張

 C県は、本件認可は条例制定行為の法的性格を有するから、条例制定行為に処分性が認められないのと同様に、本件認可も「処分」に該当しないと主張する。

2.C県の主張の当否及び条例制定行為の処分性

(1)条例制定行為は、一般的抽象的法規範を定立する行為であって、「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する」とはいえないことから、類型的に処分性が否定される。

 もっとも、他の処分を待つことなく、特定個人の具体的権利義務や法的利益に直接影響を与える場合には、条例制定行為であっても例外的に処分性が肯定される。

(2)この点、都道府県又は市町村が土地区画整理事業を行う際には、定款ではなく施行規程及び事業計画を条例で定めることとされている(法52条1項、53条1項)。しかし、前述のように、都道府県知事の組合に対する勧告権限(123条1項)及び監督権限(125条1項)が定められていること、組合自身は滞納処分をすることはできず、市町村長に対する申請が必要とされていること(41条1項、3項)などから、法が都道府県又は市町村と組合を区別していることが明らかであるから、本件認可を都道府県又は市町村による条例制定行為と同視することはできない。

(3)仮に、本件認可を条例制定行為と同視できるとしても、前述のように、本件認可は他の処分を待つことなく、組合の構成員である個々の私人に対して、直接に賦課金の支払義務という個別具体的な法効果を生じるものであるから、例外的に処分性が認められる場合に該当する。

 

第4 結論

 以上により、本件認可は、組合の構成員である個々の私人に対して、直接に賦課金の支払義務という個別具体的な法効果を生じるという点で、「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」といえるから、取消訴訟の対象となる「処分」に該当する。 

 

〔設問2〕

第1 本件認可につき、Aが主張すべき違法事由

 Aが主張すべき本件認可を違法とする法律論としては、①本件組合の事業施行能力に関する違法事由、②本件定款変更決議における書面議決書の取扱いに関する違法事由、③賦課金の算定方法に関する違法事由の3つがありうる。そこで、以下ではこの3つの主張につき、関係する法令の規定を挙げながら検討する。

 

第2 ①本件組合の事業施行能力に関する違法事由

 本件事業は、地価が高騰しつつあったバブル経済期に計画され、保留地を高値で売却できることが資金計画の前提とされてきたところ、バブルの崩壊によりこの前提が大きく崩れることになった。にもかかわらず、本件組合は楽観的な見通しのもとに資金計画の変更を繰り返してきたのであり、今回の変更は7回目にあたる。このような度重なる資金計画の変更は、本件組合の事業遂行能力に大きな疑問を抱かせるものであって、本件事業は実質的には既に破綻しているものといえる。

 したがって、本件組合は、21条1項4号の「土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基盤及びこれを遂行するために必要なその他の能力が十分でない」場合に該当する。そして、21条1項は、定款変更認可の場合にも準用されているから(39条2項)、21条1項4号の事由に該当するにもかかわらずなされた本件認可(39条1項)は違法である。

 

第3 ②本件定款変更決議における書面議決書の取扱いに関する違法事由

 費用分担に関する定款変更決議は特別決議事項であって、組合員の3分の2以上が出席し、出席組合員の人数及び地積における3分の2以上の賛成が必要であるところ、本件決議は形式的にはこれを充足している。

 しかし、書面による議決権行使の書類については、本件組合の理事Dが組合人により署名捺印された白紙のままの書面議決書500通を受け取り、後で議案に賛成の記載を自ら施したものであった。このようなDの措置は書面による議決権行使をした組合員の意向を無視するものであって違法であるから、書面による議決権行使によってなされた賛成票は無効であると解すべきである。これにより、本件議決は、人数ベースでも地積ベースでも議決要件を充足しなくなるから、本件認可は組合の特別決議を得ることなくなされたものといえる。

 よって、本件認可手続には、31条1号に違反しており定款決定手続の法令違反(21条1項2号)があるから、これを看過してなされた本件認可は違法である(39条2項)。

 

第4 ③賦課金の算定方法に関する違法事由

 法40条2項は、賦課金の額は、組合員が有する宅地又は借地の位置、地積等を考慮して公平に定めなければならないとする。

 これを本件についてみると、本件組合の組合員一人当たりの平均地積は約482平方メートルであるが、賦課金が免除される組合員は930名であり、これは総組合員の80パーセントを占めている。また、賦課金が免除される宅地の総地積は約23平方メートルで、これは施行地区内の宅地の総地積の約41パーセントを占めている。すなわち、賦課金の支払義務を負う組合員の総地積は59パーセントにすぎないにもかかわらず、総組合員の20パーセントの者だけで15億円もの賦課金を負担することになるから、賦課金の額と所有地積との間に正比例の関係が成立せず、本件賦課金の算定方法は一部の者に多大な経済的負担を強いる点で著しく不公平といえる。

 よって、本件賦課金の算定方法には40条2項に違反するものとして、定款内容の法令違反となるから(21条1項2号)、これを看過してなされた本件認可は違法である(39条2項)。

 

第5 結論

 以上の3点で本件認可には違法事由が認められるから、本件認可は取り消されるべきである。

以上

 

【感想】 

設問1・設問2ともに、土地区画整理法を現場思考により解釈させる問題だと思った。問題文・誘導分から「土地区画整理法の条文を詳細に摘示せよ」とのメッセージがひしひしと伝わって来たので、とにかく条文に即して論じるように心がけた。設問2は、違法とする法律論と適法とする法律論を両方検討せよとのことであったが、時間との関係から前者に絞って論じた。