【平成25年司法試験再現答案】民事系第1問 ※旧ブログ記事転載

再現率:80%くらい

第1 〔設問1〕について

1.Aのなすべき主張

(1)AのCに対する保証債務履行請求の要件は、①主債務の発生原因事実が存在すること、②AC間で保証契約が締結されたこと(民法(以下、省略する。)446条1項)、③保証契約が書面によってなされたこと(446条2項)、④保証契約に連帯の約定があること(454条)、の4つである。

(2)そこで、Aとしては、まず①については、平成22年6月11日、AB間で甲土地をAがBに代金6000万円で売る旨の売買契約(555条)が締結されたことを主張すべきである。

 そして、②④については、当初BがCを無権代理することによってなされていたところ、平成22年6月15日、CがAに対し、電話で連帯保証人になることに異存はない旨告げたことにより、追認があったといえるから、Bによってなされた②④は遡及的に有効になること(116条本文)を主張すべきである。

2.Aの主張の問題点とその当否

(1)Aの保証債務履行請求に対し、Cは、AC間の連帯保証契約は書面でされておらず無効であると主張している。そこで、本問で問題となるのは③である。

 すなわち、(ⅰ)③の書面作成についても代理人によってすることができるのか、(ⅱ)代理人による書面作成ができるとして、平成22年6月15日にCがAに対してした承諾には、連帯保証契約の締結の追認のみならず、Bによる書面作成についての追認も含む趣旨であるといえるかが問題となる。

(2)まず、(ⅰ)③の書面作成を代理人によってすることができるかについてであるが、これは認められると解する。

 なぜなら、446条2項の趣旨は主債務及びそれに従たる全ての債務に及ぶ(447条1項)という保証債務の重大性に鑑み、保証人の意思を明確にして紛争を未然に防止するという点にあるところ、この趣旨は、代理人に正当な代理権が与えられている限り、代理人による書面作成によっても達成することができるからである。また、③は、書面による保証契約の合意であるという点で、代理の対象たる「意思表示」(99条1項)にも該当するからである。

(3)次に、(ⅱ)の点について検討する。

 確かに、CはAに対し、連帯保証人になることに異存はない旨告げたのみであって、書面作成の点については明示的に言及していない。

 しかし、平成22年6月15日にBがCに会って、BがCを代理して本件連帯保証契約を締結したこと及びCの追認を得る必要があることを説明した際には、Bが作成した本件連帯保証契約の書面を示していたのであり、これについてCは何ら異議を述べることなく本件連帯保証契約の締結を承認しているのであるから、CがAに対してなした連帯保証人になることに異存はない旨の意思表示には、上記書面作成についての追認をも含む趣旨であったと解するのが、当事者の合理的意思解釈といえる。

 また、このように解したとしても、連帯保証人になることに異存はない旨の意思表示はC自身によって明確になされているから、446条2項の趣旨に反するものでもない。

(4)よって、平成22年6月15日にCがAに対してした追認により、③の要件も充足される。

 以上により、AのCに対する、本件連帯保証契約に基づく保証債務履行請求は認められる。

 

第2 〔設問2〕について

1.Bの主張

(1)Bとしては、Fに対し、債務不履行に基づく100万円の損害賠償請求権(415条前段)を主張すべきである。

(2)債務不履行に基づく損害賠償請求(415条前段)の要件は、①債務者に債務不履行があること、②債務不履行が債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと、③債権者に損害が生じていること、④債務不履行と損害との間に因果関係が認められることである。

(3)BはFとの間で、平成23年10月1日、丙建物の1階部分につき、賃料月額40万円にてFに賃貸する旨の賃貸借契約(601条)を締結している(本件賃貸借契約①)。

 したがって、賃借人であるFは、本件賃貸借契約①に基づく義務として、用法に従って目的物を使用収益し、目的物を適切に保管する義務を負っているものと解されるから(616条、594条1項)、FがHに内装工事を依頼し、Hが丙建物の一部に亀裂を生じさせたことは、上記保管義務に不履行といえる(①)。

(4)債務者の責めに帰すべき事由とは、債務者自身の故意・過失または信義則上これと同視しうべき事由をいう。丙建物に亀裂を生じたことはHの過失によるものであるが、HはFから丙建物の内装工事の発注を受けて工事を行った者であるから、Hは上記保管義務との関係では、Fの履行補助者であったといえる。そして、履行補助者の故意・過失は信義則上債務者自身の故意・過失と同視すべきものである。よって、上記債務不履行につきHの帰責事由が認められる(②)。

(5)Bは亀裂の修繕費用として100万円を支出した点で損害を被っているところ(③)、この支出額は修繕工事の対価として適正なものであるから、上記債務不履行との間に相当因果関係が認められる損害(416条1項)といえる(④)。

(6)以上より、BはFに対し、債務不履行に基づく100万円の損害賠償請請求を主張する。

2.Fの主張

(1)本件賃貸借契約①においては、丙建物の1階部分をコーヒーショップとして使用することが明示されていた。このような目的のためには内装工事が当然に必要となるから、その内装工事によって生じた建物の修繕費用は、むしろ賃貸人の修繕義務(606条1項)の一内容としてBが負担すべきものである。したがって、Fに目的物保管義務の債務不履行は認められない(①不充足)。

(2)仮に、Fに目的物保管義務の不履行があるとしても、BはHに内装工事を行わせることについて承諾しているから、Hの過失についてのリスクはBが負うべきであって、Fに帰責事由は認められない(②不充足)。

3.それぞれの主張の当否

(1)確かに、本件賃貸借契約①においては、丙建物の内装工事が当然に予定されていたものであるが、それは賃借人であるFが内装工事を行うことを賃貸人Bが承諾するということにとどまり、内装工事によって生じた建物の瑕疵についてまで、Bが修繕義務(606条1項)を負うということまで意味するものとはいえない。

 したがって、この点に関するFの反論は妥当でなく、Fが行った内装工事によって丙建物に亀裂が生じている以上、Fには目的物の保管義務(616条、594条1項)の債務不履行があったというべきである。

(2)Bは、FがHに内装工事を行わせることについて承諾をしているが、これは本件賃貸借契約①の当事者でないHが内装工事を行うことそのもの、あるいはHが内装工事のために丙建物に出入りすることに対する承諾であって、Hの過失による目的物の損傷についてFを免責する趣旨を含むものとまではいえない。

 したがって、この点に関するFの反論も妥当ではなく、HがFの目的物保管義務との関係で履行補助者に該当する以上、Hの過失はFの帰責事由と同視される。

(3)以上により、Bの主張は正当といえるから、BはFに対し、債務不履行に基づく100万円の損害賠償請請求をすることができる。

 

第3 〔設問3〕について

1.GのBに対する30万円の支配請求権の法的構成について

(1)BはGとの間において、平成23年11月1日、丙建物の2階部分について、学習塾として使用することを目的とし、賃料月額30万円にてGに賃貸する契約(本件賃貸借契約②)を締結している(601条)。本件賃貸借契約②に基づき、賃貸人であるBは目的物の修繕義務を負うから(606条1項)、平成24年9月初旬に生じた大型台風による丙建物の損傷については、Bが修繕義務を負うものであった。したがって、Bが直ちにこれをしなかったことは債務不履行といえる。

(2)台風及び丙建物の損傷の発生についてBに帰責事由がないとしても、上記修繕義務の不履行については、Bが所在不明でGからの連絡を受領しなかった点で過失が認められる。

(3)Gは、Bが所在不明で直ちに丙建物を修繕しなかったことからやむなくEに修繕を依頼し、適正対価30万円を支払っているから、損害の発生及び上記債務不履行との因果関係が認められる。

(4)以上により、GはBに対し、賃貸人の修繕義務の債務不履行に基づく30万円の損害賠償請求権を有している(415条前段)。

2.Dの反論を踏まえた上で、Gがなすべき主張

(1)Dが反論するように、判例は、抵当権者が物上代位権行使によって賃料債権を差し押さえた後は、賃借人は、抵当権設定登記後に賃借人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないとしている。

 したがって、Gが上記30万円の損害賠償請求権を自働債権として、Dに対し対当額の賃料債権との相殺を主張するとすれば、これは認められないことになる。

(2)しかし、そもそも賃料は目的物の使用収益の対価として発生するものであって(601条参照)、賃貸人の修繕義務は、目的物が使用収益可能な状態を維持するための義務である。とすれば、賃貸人の修繕義務が履行されない間は、賃借人の賃料支払義務も生じないと解すべきである。

 したがって、Bが修繕義務の履行を怠った平成24年9月初旬以降すなわち10月分以降の賃料支払債務はそもそも発生していないというべきである、このように解すれば、相殺以前の問題として受働債権がそもそも存在しないというのであるから、上記判例に抵触することはない。

(3)以上により、Gが相殺を主張するまでもなく、Dが差し押さえた平成24年10月分以降の賃料はそもそも発生していないのであるから、Gは90万円全額の支配を拒むことができる。

以上

 

【感想】
設問1は例年通り、要件事実っぽい問題だと思ったが、何を書けばいいのか少し迷った。設問2の配点が高い理由が最後までわからなかったが、できるだけ多くの事実を拾い、要件を一つ一つ検討するよう心がけた。設問3は、どう反論すればよいかわからなかったが、条文・趣旨に遡って自分なりの考えを論述してみた。