【平成25年司法試験再現答案】民事系第2問 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

第1 〔設問1〕

1.EのFに対する甲社株式譲渡の有効性

(1)甲社定款5条によれば、甲社株式はその全てについて譲渡制限が付されており(会社法(以下、省略する。)107条1項1号)、その譲渡には取締役会の承認が必要とされている。

 本件では、EはFに対し、甲社株式50株を代金1億円で売る売買契約を締結している。そして、Eから甲社に対して、株式譲渡承認請求書が提出されており(136条)、かつ、甲社から何の連絡もなく2週間が経過しているから、145条1号により甲社の譲渡承認が擬制されるとも思える。

(2)しかし、甲社が何の連絡もしなかったのは、Aが他の取締役に対して、Eから譲渡承認請求があった旨を伝えなかったためである。すなわち、Eの譲渡承認請求は、承認機関である甲社の取締役会に認識されていなかった。

 そもそも、145条1号の趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主として参加するのを防止するという会社の利益と株式取引の安全との調和を図る点にあるところ、後者が前者に優越したといえるのは、譲渡承認請求があった旨を承認期間が認識したにもかかわらず、なお2週間にわたって通知を怠った場合に限られる。

 とすれば、Eの譲渡承認請求は、承認機関である甲社の取締役会に認識されていない本件では、

そもそも「会社に対し」(136条)譲渡承認請求がなされたとはいえず、145条1号による承認擬制の前提を欠くというべきである。

(3)よって、本件では145条1号の適用はなく、EのFに対する甲社株式の譲渡は甲社に対する関係では効力を生じないと解すべきである。

2.平成25年総会においてFを株主として取り扱うことの当否

(1)前述のように、定款による株式譲渡制限の趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主として会社に参加することを阻止する点にあるから、譲渡承認のない株式譲渡は会社との関係では無効である。したがって、会社は譲受人を株主として取扱うことは原則として許されない。

 もっとも、譲渡につき株主全員の同意がある場合には、会社の利益を害さず、譲渡承認に代替する機能があるといえるから、会社が譲受人を株主として取り扱うことも許されると解すべきである。

(2)これを本件についてみると、平成25年総会においては、株主であるA・B・C・D全員が出席しており、Fの議決権行使に対して何らの異議も述べていないから、株主全員の黙示的な同意があったともいえそうである。

 しかし、FはDを代理人として議決権を行使しており(310条1項)、総会の場には現れていない。すなわち、Fが本件株式譲渡を受け、平成25年総会において株主として議決権行使しようとしていることはDとAを除く株主には認識されていなかったのであるから、そもそも黙示の同意を擬制すべき前提を欠いているといえる。

(3)よって、Fの議決権行使に対し株主全員の同意があったものと解することはできないから、甲社が平成25年総会においてFを株主として取り扱ったことは違法である。

 

第2 〔設問2〕

1.小問(1)について

 Bは、以下の3点を決議取消事由として主張し、本件報酬決議の取消の訴え(831条1項柱書)を提起することが考えられる。以下、それぞれの決議取消事由につき検討する。

(1)本件報酬決議が招集通知に記載されていない議案に関する決議であった点

 甲社は取締役会設置会社であるから(定款8条1項)、309条5項本文が適用されるところ、本件報酬議案は、招集通知に記載されていない事項であった。

 Aは、平成25年総会の席上で、本件報酬議案を提案しているが、これは総会期日の8週間前までの請求を必要とする株主の議題提出権(303条1項)に該当するものではない。また、本件報酬議案は、目的事項である第1号議案・第2号議案のいずれとも関連しないものであるから、株主の議案提出権(304条)にも該当するものではない。

 したがって、本件報酬決議が招集通知に記載されていない議案に関するものであったことは、309条5項本文に反するものとして、決議方法の法令違反に該当する(831条1項1号)。そして、309条5項本文の趣旨が、事前に目的事項を通知することによって株主に熟慮する機会を与える点にあることからすれば、上記法令違反は重大であり、裁量棄却(831条2項)は許されないというべきである。

(2)Bによる120個の議決権行使を無効として取り扱った点

 Aは、Qが有していた120株の甲社株式につき、権利行使者の指定にAの同意がないことを理由に、Bの120個の議決権行使を無効として取り扱っている。

 しかし、共有株式の権利行使者の指定(106条文本文)は、共有物の管理行為にあたるものとして持分の過半数で決すべきところ(民法264条、252条本文)、本件のBを権利行使者とする決定については、共有持分の等しいABCのうち、BCが合意をしているのであるから、上記権利行使者の指定は有効になされていたというべきである。

 したがって、上記Aの取扱いは106条本文に反するものとして、決議方法の法令違反に該当する(831条1項1号)。そして、上記議決権行使が有効であれば、反対票が520票となって本件報酬決議は否決されていたといえるから、決議に影響を及ぼすことが明らかな法令違反であり、裁量棄却(831条2項)は許されない。

(3)後に2億円の取締役報酬を得ることになるAが議決権行使をしていた点

 831条1項3号にいう「特別の利害関係を有する者」とは、当該決議がなされることによって他の株主が得られないような利益を得る株主をいう。

 これを本件のAについてみると、確かに、Aは本件報酬決議を経た上で、その後の取締役会でAの報酬を2億円に引き上げることを企図しており、またそのように実行している。しかし、本件報酬決議そのものは、取締役全員の報酬の総額を年3億円に引き上げるというものであって、これ自体は他の取締役であるBC等にとっても利益となりうるものであった。

 したがって、本件報酬決議の段階では、Aが他の株主が得られないような利益を得る危険は未だ現実化していたとはいえないから、Aは「特別の利害関係を有する者」にあたらないというべきである。

 よって、本件報酬決議に831条1項3号の取消事由は認められない。

2,小問(2)について

(1)361条1項は取締役の報酬につき株主総会の決議が必要としている。したがって、報酬決議が取り消されれば、その遡及効(839条反対解釈)により、当該報酬の支払いは「法律上の原因」(民法703条)を失うことになる。

(2)よって、小問(1)で述べた事由により本件報酬決議が取り消されれば、甲社はA・D・Gに対し、不当利得として支払済み報酬の全部の返還を請求することができる(民法703条704条)。

第3 〔設問3〕

1.①11の時点で採ることができる手段

(1)Bとしては、本件募集株式発行の差止請求をすることが考えられる(210条)。

(2)この点、本件募集株式の発行は、株主総会の決議を経ることなくなされているが、本件のような株主割当の場合には、株主総会決議は不要である(202条5項)。したがって、株主総会決議がないことを法令違反として、本件募集株式発行の差止め(210条1号)を求めることはできない。

(3)210条2号の「著しく不公正な方法」とは、不当目的を達成する手段、すなわち現経営者の支配権を維持することを主要な目的として株式発行を用いる場合をいう(主要目的ルール)。

 本件募集株式の発行は、Aが甲社における自己の支配権を確立する目的で行ったものであるから、「著しく不公正な方法」に該当することは明らかである。

 したがって、Bは本件募集株式発行の差止めを請求することができる(210条2号)。

2.②12の時点で採ることができる手段

(1)Bとしては、本件募集株式発行の無効の訴えを提起することが考えられる(828条1項)。

(2)この点、新株発行の無効原因について明文の規定はないが、株式取引の安全を図る必要性が高いことから、会社や株主の救済が著しく困難といえるような重大な瑕疵に限定すべきである。

(3)前述のとおり、本件募集株式発行については「著しく不公正な方法」の瑕疵があるが、このような瑕疵は、一般論としては無効原因たりえない。

 なぜなら、「著しく不公正な方法」による発行の瑕疵は、本来差止請求によって救済されるべきものであって(201条2号)、発行後は取引の安全を優先すべきだからである。

(4)もっとも、甲社は発行株式全部につき譲渡制限を付しているところ(定款5条)、このような非公開会社(2条5号反対解釈)における新株無償割当てについては、「著しく不公正な方法」の瑕疵も無効原因になると解すべきである。

 なぜなら、①通知・公告制度(201条3項・4項)がない非公開会社の新株発行においては、株主総会が唯一の情報公開の場であるところ、前述のように新株無償割当てについてはそもそも株主総会決議が不要であって(202条5項)、株主は新株発行に関する情報を入手することができず、差止請求(210条)による事前救済を期待することができない反面、②非公開会社においては株式の流通性が乏しく、取引安全の要請が小さいといえるからである。

(5)したがって、Bは、本件募集株式発行が「著しく不公正な方法」によるものであったことを無効原因として、無効の訴えを提起することができる(828条1項・2項)。

以上

 

【感想】

全体を通じて論ずべきことが多いと思ったが、答案の筋は短時間で立てることができた。基本的な判例の考えを応用することで対応できる問題だと感じた。設問3については、甲社が非公開会社である点をどのように考慮するかがポイントだと思い、最判平成24.4.24を念頭において論述した。内容・分量ともに自分としては満足のできる出来だった。