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【平成25年司法試験再現答案】刑事系第2問 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

〔設問1〕

第1 逮捕①及び逮捕②の適法性について

1.準現行犯逮捕の要件

(1)本件の逮捕①及び逮捕②は、いずれも令状を得ないでなされたものであるが、刑事訴訟法(以下、省略する。)212条2項の要件を満たせば、甲・乙が「現行犯人」とみなされる結果、213条により、適法な逮捕となる。

(2)212条2項の要件は、①「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる」こと、すなわち犯罪と犯人の明白性、②212条2項各号のいずれかに該当すること、③犯行と逮捕行為との相当程度に時間的場所的接着性、④「逮捕の必要」(199条2項但書参照)があること、の4つである。

2.逮捕①の適法性について

(1)①犯罪と犯人の明白性は、逮捕者が犯行を現認した場合か、被逮捕者が当該犯行の犯人であることが逮捕者において外部的事情から直接明白に覚知できる場合にのみ認められ、単に目撃証言があるというだけでは認められない。

 これを本件についてみると、まず、甲は、Wの目撃証言においてVを包丁で刺したとされる「男1」と「身長約190センチメートル、痩せ型、20歳くらい、上下とも青色の着衣、長髪」という点において、風貌が完全に一致している。また、包丁で胸を突き刺すという犯行態様からして、犯人に着衣には返り血が付着している可能性が極めて高いと思われるところ、甲の着衣及び靴には一見して血と分かる赤い液体が付着していた。さらに、甲と一緒にいた乙が、甲がVを刺したと供述しているところ、その犯行態様や時間・場所はWの証言と完全に一致しており、信用性は極めて高い。

 以上のことからすれば、甲が本件犯行の犯人であることが、Pにおいて直接明白に覚知できるに至っていたということができるから、犯行と犯人の明白性が認められる(①)。

(2)前述のように、甲の着衣及び靴には血液が付着していたから、212条2項3号の「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき」に該当する。この点、血液の付着だけでは「顕著な」証跡とまではいえないとも思われるが、甲の風貌が、Wの証言における「男1」と完全に一致していること、乙が本件犯行は甲が行った旨供述しており、その内容がWの証言と完全に一致していることからすれば、血液はVのものであり、本件犯行によって付着したことが明らかになったといえるから、「顕著な」証跡ということができる(②)。

(3)甲は、本件犯行から約30分後、本件犯行現場であるH公園から北西方向に800メートル離れた路上で逮捕されている。甲がPらから呼び止められた時点では本件犯行から20分しか経過していなかったこと、北西方向に逃げたとのWの証言通り、H公園の北西に位置する地点で発見されていることからすれば、犯行と逮捕との相当程度の時間的場所的接着性を認めてよいと考える(③)。

(4)本件ににおいて、特に逮捕の必要性を阻却する事情はみられない。むしろ、甲がPらの質問に答えず、血液の付着につき合理的な説明をしていないことからすれば、逮捕の必要性は高かったといえる(④)。

(5)以上により、逮捕①は212条2項の要件を満たしているから、213条により適法である。

3.逮捕②の適法性について

(1)まず、乙は、Wの目撃証言における「男1」に「やれ。」命令した「男2」と「身長約170センチメートル、小太り、30歳くらい、上が白色の着衣、下が黒色の着衣、短髪」という点で、その風貌が完全に一致している。また、乙は自ら甲に対してVの殺害を依頼し「やれ。」と命令したこと、それに従って甲がVを包丁で2回突き刺したことを供述しており、その内容はWの証言と完全に一致している。そして、一緒にいた甲の着衣及び靴には、明らかに上記犯行の際に浴びたと認められる血液が付着していた。

 以上のことからすれば、甲との関係のみならず、乙との関係でも、乙が本件犯行の共犯であることがPにおいて直接明白に覚知できすることができる情況にあったといえるから、犯罪と犯人の明白性が認められる(①)。

(2)乙には、甲とは異なり、着衣等に血液が付着しているといった事情はない。

 もっとも、本件逮捕②における乙の被疑事実は、「甲と共謀の上、Vを殺害した」との殺人罪の共謀共同正犯であると思われるから、実行犯ではない乙に直接「犯罪の顕著な証跡」(212条2項3号)が見られないのはむしろ当然である。そこで、このような共犯の場合には、被逮捕者自信に「犯罪の顕著な証跡」が見られなくても、共犯者についてそれが認められれば212条2項3号に該当すると解すべきである。

 したがって、逮捕①で述べたとおり、甲の着衣及び靴に血液が付着していることは甲との関係で「顕著な証跡」といえるから、共謀共同正犯者である乙についても「顕著な証跡」に該当する(②)。

(3)逮捕①で述べたのと同様に、犯行と逮捕との相当程度の時間的場所的接着性は認められる(③)。

(4)本件ににおいて、特に逮捕の必要性を阻却する事情はみられないから、逮捕の必要性は認められる(④)。

(5)以上により、逮捕②も212条2項の要件を満たしているから、213条により適法となる。

 

第2 差押えの適法性について

1.逮捕に伴う捜索・差押えの要件

(1)本件差押えは、逮捕①に伴う差押え(220条1項2号、同3項)として行われたものと思われるところ、逮捕①は適法になされているから「現行犯人を逮捕する場合」(220条1項柱書)の要件は充足している。では、「逮捕の現場」(22条1項2号)における差押えといえるか。

(2)220条1項2号が逮捕に伴う無令状の捜索・差押えを認めているのは、逮捕の現場には被疑事実に関する証拠物が存在する蓋然性が高いことを前提に、その隠滅を防止し保全する緊急の必要性があるからである(緊急処分説)。

(3)このような緊急処分説からすれば、捜索対象が「場所」ではなく被疑者の「身体」である場合、被疑者がどこにいようとも上記の趣旨はあてはまり、「逮捕の現場」に当たるとも思える。

 しかし、このような解釈は「逮捕の現場」という文言上の限定を無意味にするから妥当でない。そこで、逮捕した現場で捜索・差押えをすることが困難な事情のある場合には、処分の円滑な実施のため、最寄りの適切な場所に移動して行う場合に限り、「逮捕の現場」における捜索・差押えとして許容されると解すべきである。

(4)これを本件についてみると、逮捕①を行った路上では、甲が暴れ始め交通の妨げになるなど、その場において甲の身体着衣につき捜索を行うことが困難な事情があった。そこで、甲を最寄りの300メートル離れたI交番に連行して捜索を行うことも適法と解されるところ、本件差押えの対象物である携帯電話は、その移動中に甲が落としたものであった。

 すなわち、I交番に連行して行う捜索は「逮捕の現場」におけるものとして適法であり、その捜索がなされていれば上記携帯電話は適法に発見され、差押えられていたはずのものである。

 したがって、それよりも前の時点においてたまたま携帯電話が発見され、差押えられたとしても、「逮捕の現場」における差押えと同視することができるというべきである。

(5)以上により、本件差押えは「逮捕の現場」における差押えといえる。

3.携帯電話の記録内容を確認することなく差押えたことの適法性

(1)逮捕に伴う差押えとして差押えることができるのは、当該逮捕の基礎となった被疑事実に関連する証拠物に限られる。Pは携帯電話の記録内容を閲覧するなどして本件犯行との関連性を確認することなく本件差押えに及んでいるが、かかる差押えは適法か。

(2)この点、携帯電話等の電子機器に記録された電子データは、外部からの可視性・可読性を欠いいており、記録内容の確認には一定の装置を機器・操作が必要となる反面、その改ざんや消去は極めて容易である。そこで、このような電子データが記録された機器については、①被疑事実に関連する情報が記録されていると認められる合理的理由があり、②現場で被疑事実との関連性を確認することが困難であり、③罪証隠滅のおそれが認められる場合には、内容を確認することなくこれを差押えることも適法と解すべきである。

(3)これを本件についてみると、乙は、今朝甲に対して、V殺害に対する報酬金額を打診するメールを携帯電話で送った旨供述し、その送信メールを示している。かかるメールは、本件犯行における甲と乙の共謀を基礎づける重要な証拠であるところ、通常、携帯電話からのメール送信であれば、同じく携帯電話に向けて送ったものと考えられるから、甲が所持していた携帯電話に上記メールを受信・開封したことが記録されている蓋然性が高かったといえる(①)。

 また、Pは、捜索を拒んで暴れたりしていた甲がたまたま落とした携帯電話を、とっさに拾って差し押さえたものであり、同時に甲が携帯電話を拾おうと手を伸ばしていたことに鑑みると、甲によって上記メールが削除されるおそれがあり(③)、携帯電話の内容を確認している時間的余裕はなかったものといえる(②)。

(4)したがって、Pが携帯電話の内容を確認することなくこれを差し押さえたことは適法である。

4.以上により、本件差押えは適法である。

 

〔設問2〕 

第1 実況見分調書全体の証拠能力

 本件実況見分調書は、「公判期日における供述に代」わる書面であるから、320条1項が適用され、原則として証拠能力が適用される(伝聞法則)。

 もっとも、実況見分は任意捜査としておこなわれる「検証」といえるから、実況見分調書には321条3項の準用が認められる。したがって、作成者であるPが尋問を受け、作成の真正及び内容の真正について供述すれば、証拠能力が認められる(321条3項)。

 

第2 実況見分調書中別紙1部分の証拠能力

1 問題の所在

(1)実況見分調書全体の証拠能力が認められたとしても、それに添付された別紙1および別紙2につき証拠能力が認められるかは別論である。すなわち、別紙1及び別紙2部分が伝聞証拠として別途伝聞法則(320条1項)の適用を受けるかが問題となる。

(2)320条1項が規定する伝聞法則の趣旨は、反対尋問・供述態度の観察・偽証罪の告知等によって知覚・表現・記憶・叙述の各過程に誤りが介入していないかをチェックすることができない公判廷外の供述証拠の証拠能力を原則として否定する点にある。したがって、要証事実との関係で供述内容の真実性を立証するために用いられるものだけが伝聞法則の適用を受けることになる。

2 説明部分の証拠能力

(1)別紙1は、司法警察員2名が犯行状況を再現した再現写真部分とWがそれを説明した部分から成っている。

(2)説明部分における「犯人の一人が、被害者に対し、右手に持った包丁を胸に突き刺した」とのWの供述について、検察官の立証趣旨が「犯行状況」とされていること、甲が本件殺人について一貫して黙秘していることに鑑みると、その要証事実は「甲が、Vの胸に包丁を突き刺したこと」であると解される。この要証事実は、上記Wの供述の内容通りの事実が本当にあったことが立証されて初めて推認が可能となる。したがって、説明部分は伝聞法則の適用を受ける。

(3)説明部分は、Wの供述録取書の性質を有するものとして321条1項3号の伝聞例外が適用されうるが、そもそもWの「署名若しくは押印」(321条1項柱書)がない以上、原則通り証拠能力は認められない。

3 再現写真部分の証拠力

(1)写真部分は、写真ではあるものの、Wの説明に基づく再現であるという点で、Wの知覚・記憶等に誤りがないかをチェックする必要があるので、「行動による供述」として供述証拠にあたる。そして、写真部分についても、要証事実は説明部分と同様、甲が本件殺人を行ったことであるから、その内容の真実性が問題となるものとして伝聞法則の適用を受ける。 

(2)写真部分もWの供述録取書としての性質を有しているが、録取の過程については機械的正確性が担保されているので、「署名若しくは押印」は不要である。

 もっとも、Wは存命であり、その他の供述不能事由も認められないので、321条1項3号の要件を満たさず、証拠能力は認められない。

 

第3 実況見分調書中別紙2部分の証拠能力

1 説明部分の証拠能力

(1)別紙2も再現写真部分とWの説明部分から成っている。

(2)説明部分について、その要証事実は、立証趣旨の通り「Wが犯行を目撃することが可能であったこと」と考えられる。この要証事実は、Wが「私が…立っていた場所はここです。」と指示し、その位置において「犯行状況…は、私が…立っていた位置から十分に見ることができます。」と説明したこと自体から推認が可能である。すなわち、上記Wの説明内容の真実性を問題にすることなく、説明したことそれ自体から推認が可能である。

(3)したがって、説明部分には独立して伝聞法則の適用はなく、実況見分調書を一体のものとして、調書全体が321条3項の要件を満たす限り、証拠能力が認められる。

2 再現写真部分の証拠能力

(1)再現写真部分も前述のとおり供述証拠にあたるが、この証拠の要証事実である「Wが犯行を目撃することが可能であったこと」は、説明部分と同様、その内容の真実性を問題とすることなく、写真に写された状況そのものから推認が可能である。

(2)したがって、伝聞法則の適用はなく、実況見分調書と一体のものとして、調書全体が321条3項の要件を満たす限り、証拠能力が認められる。

以上


【感想】 

設問1の逮捕①②の適法性については非常に難しかったが、乙が甲の犯行を供述している点と、乙と甲が共犯関係にある点をどのように考慮するかがポイントになると思った。差押えの適法性についても考えたことのない問題であったが、220条1項2号の趣旨から丁寧に論じるよう心がけた。加えて、携帯電話の中身を確認することなく差押えた点も問題になると思った。

設問2については、正直何を聞きたいのかがわからなかった。最決平成17.9.27に準拠して論じれば足りるように感じたが、本当にそれだけでよいのか不安になった。