【平成25年司法試験再現答案】知的財産法 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

【第1問】

第1 設問1について

1.請求原因

(1)まず、Xは発明αにかかる本件特許権の設定登録を受けているから「特許権者」(特許法(以下、省略する。)100条1項)。

(2)特許権を「侵害する者」(100条1項)とは、「業として」「特許発明」の「実施」をする者をいう(68条本文参照)。この点、Yが使用している方法1及び方法2は、物質b1を用いるか物質b2を用いるかという点で違いがあるものの、両物質の上位概念である物質Bを用いた発明αの方法に包摂される関係にあるから、いずれも「物を生産する方法の発明」(2条3項3号)である発明αの「技術的範囲」(70条1項)に属している。

 したがって、Yが方法1及び方法2を「使用」して化合物Cの製造を行うことは、「業として」「特許発明」を「実施」(2条3項3号)したものといえるから、Yは「侵害する者」にあたる。

(3)以上により、Xの差止請求は請求原因を満たしている(100条1項)。

2.方法1に関するYの抗弁

(1)無効の抗弁(104条の3第1項)

 Xは、乙から方法1に関する特許を受ける権利の譲渡を受け、同じく方法1に関する特許を受ける権利を承継した(35条2項反対解釈)Yよりも先に出願しているから、34条1項によりXが特許を受ける権利を確定的に取得し、YはXに対抗することができないとも思える。

 しかし、方法1に関する発明は甲と乙の共同発明であるから、甲の「同意」がない以上、Xに対する特許を受ける権利の譲渡は無効である(33条3項)。したがって、Xは最初から無権利であって34条1項の「第三者」にはあたらないと解されるから、Yは出願なくして特許を受ける権利の承継をXに対抗することができる。

 よって、Xは方法1に関する特許を受ける権利を有していないから、本件特許には123条1項6号の無効原因があり、Yは無効の抗弁を主張することができる(104条の3第1項)

(2)先使用による通常実施権の抗弁(79条)

 仮に、無効の抗弁が成立しないとしても、Yは先使用による通常実施権(79条)を取得したとしてXに対抗することができる。

 すなわち、方法1は、Yの従業員である甲と乙が職務発明(35条1項)として共同で発明したものであるところ、Yは甲・乙から知得して、Xによる発明αの出願前に方法1を「使用」することにより「実施」(2条3項3号)して化合物Cを製造するという「事業」を行っていたといえるから、方法1につき通常実施権を取得している(79条)。

 したがって、Yによる方法1の使用は、本件特許権の侵害にあたらない(78条2項)。

3.方法2に関するYの抗弁

(1)方法2は、乙がYを退職してXの従業員となった後になされたものであるから、方法2について独自の先使用権(79条)は成立しない。

(2)もっとも、方法1と方法2は、物質b1を用いるか物質b2を用いるかという点に違いがあるにすぎない。そこで、方法2の使用は、方法1について成立した先使用権の「実施…している発明…の範囲内」(79条)にあるものとして、侵害にならないと主張することはできないか。

 この点、技術革新が著しい現代において、先使用権の範囲を出願時の実施形式に限定されるとすれば、先使用権の制度自体を無意味にしてしまうおそれがある。そこで、「実施…している発明…の範囲」とは、特許出願の際に先使用権者が現に実施していた形式に限定されるものではなく、その実施形式に具現化された技術的思想と同一性を失わない範囲内において、変更した実施形式にも及ぶものと解すべきである。

(3)これを本件についてみると、方法2は物質b2を用いることにより、方法1よりも顕著に高い収率で化合物Cを生産するものであるが、物質b1・b2共に物質Bという上位概念に包摂されるものであるから、両方法には類似性があったといえる。また、方法2の使用は、方法1に用いていた生産ラインを一部変更するだけで可能になるものであるから、両方法を使用するにあたっての設備上の障壁も低かったといえる。

 したがって、方法1に具現化された技術的思想の範囲には、方法2も含まれていたといえるから、方法2は「実施…している発明…の範囲」にあるものとして、方法1について成立した先使用権が及ぶ(79条)。

(4)よって、Yによる方法2の使用は、本件特許権の侵害にあたらない(78条2項)。

 

第2 設問2について

 Yは、方法2の使用が、方法1について成立した先使用権の範囲内にあるという。

 しかし、Yの主張する先使用権の拡張の根拠は、先使用権の範囲が特許出願時の実施形式に限られ、出願後の技術進歩によって可能になった実施形式についてはおよそ先使用権が及ばないとすれば、先使用権者の保護に欠けるという点にあるところ、そもそも物質b1の代わりに物質b2を用いるということは、本件特許の出願前に可能になっていたものであり、出願後の技術進歩によって可能になったものではない。

 したがって、上記の根拠があてはまらないから、Yの主張はその前提を欠いている。よって、方法1につき成立した先使用権は、方法2の使用については及ばない。

 

第3 設問3について

1.Xに対する本件特許権の移転請求(74条1項)の可否

(1)設問1で述べたように、本件特許権には123条1項6号の無効原因がある(74条1項)。

(2)また、設問1で述べたとおり、方法1に関する特許を受ける権利は、Xが「第三者」(34条1項)にあたらない結果、Yが確定的に取得する。他方、方法2に関する特許を受ける権利は、乙から譲渡を受けたXが取得している。

 本件特許権にかかる発明αが、物質b1・b2の上位概念である物質Bを用いることにより、方法1と方法2を包含する関係にあることに鑑みれば、発明αに関する特許を受ける権利は、XとYの共有に属しているものというべきである。

 したがって、方法1に関する限りで、Yは発明αについての「特許を受ける権利を有する者」(74条1項)に該当する。

(3)以上により、Yは自己の持分である方法1に関する限りで、Xに対し、本件特許権の移転請求をすることができる(74条1項、規則40条の2)。なお、Xは、当該持分の移転につき自己の同意がないことを理由に、上記移転請求を拒むことができない(74条3項)。

2.Xに対する方法1使用の差止請求の可否

 方法1に関する本件特許権の移転請求が認められれば、方法1の使用に関する限りでXは「侵害する者」にあたるから、YはXに対し、方法1の差止めを請求することができる(100条1項)。

以上

 

【第2問】

第1 設問1について

1.Aの主張

(1)本件小説は、古代中国の武将αの数奇な生涯を描いた小説であって、Aの「思想又は感情を創作的に表現したもの」であって、「文芸…の範囲」に属するものであるから、「小説の著作物」として「著作物」にあたる(著作権法(以下、省略する。)2条1項1号、10条1項1号)。そして、執筆者であるAが「著作者」として著作権を享有する(2条1項2号、17条1項)。

(2)本件漫画は、Bが、本件小説に登場するαその他の登場人物について、小説で言語として描かれた特徴に独自の視点を加味して描くことにより、新たな創作性を付与して「翻案」したものといえるから、本件小説の「二次的著作物」(2条1項11号)といえる。

(3)本件アニメは、本件漫画の登場人物の作画を忠実にアニメ化することによって「有形的に再製」したものといえるから、本件アニメのDVDの製造は、本件漫画の「複製」(21条、2条1項15号)にあたる。そして、本件アニメのDVDの販売は、本件漫画の「複製物」を「公衆」に「譲渡」したものといえる(26条の2第1項)。

(4)したがって、Aは、二次的著作物である本件漫画の「原著作物の著作者」として、本件漫画の著作者であるBと「同一の種類の権利」を有するから(28条)、Cに対し、複製権侵害(21条)及び譲渡権侵害(26条の2第1項)を理由に、本件アニメDVDの製造・販売の差止めを請求することができる(112条1項)。

2.Cの反論

(1)確かに、本件アニメDVDの製造・販売は、本件漫画の「複製」及び「公衆」に対する「譲渡」に該当する。

(2)しかし、本件アニメは、本件漫画の登場人物の作画のみを利用したものであり、物語の展開は本件小説には全く描かれていない独自の内容であった。すなわち、本件アニメにおいて有形的に再製されているのは、本件漫画によって初めて付加された創作的部分のみであって、「小説の著作物」である本件小説の創作性は、本件アニメには一切現れていない。したがって、このような、二次的著作物によって新たに付加された部分のみの利用については、28条を介した原著作物の著作者の権利は及ばないと解すべきである。

(3)よって、Aは、28条を介した複製権・譲渡権を、本件アニメDVDの製造・販売について行使することはできない。

3.双方の主張の妥当性

(1)確かに、28条の文言上は原著作物の著作者が行使できる権利の範囲に限定はなく、裁判例にも「新たに付加された部分」のみの利用であっても原著作物の著作者の28条を介した権利が及ぶ旨判示したとみられるものがある。

(2)しかし、かかる解釈は創作性の保護という著作権法の大原則から乖離するものであって、他人による創作性の付加という偶然の事情で原著作物の著作者の権利が際限なく拡大することになるので妥当でない。原著作物の著作者の創作性が及ばない部分についてはもはや保護すべき実質を欠くというべきである。したがって、Cの主張する通り、新たに付加された部分のみの利用については原著作物の著作権者の権利は及ばない。

(3)よって、Aは、28条を介した複製権・譲渡権を、本件アニメDVDの製造・販売について行使することはできず、Aの主張する差止請求は認められない。

 

第2 設問2について

1.Bの主張

(1)前述のように、本件漫画は、本件小説に新たな創作性を付加して「翻案」したものであるから、本件小説の「二次的著作物」(2条1項11号)として、「著作物」(2条1項1号)にあたる。また、本件漫画中の登場人物であるαのデザインは、Bの「思想又は感情を創作的に表現」したものであって、「美術…の範囲」に属するものであるから、本件漫画とは独立して「著作物」にあたる。

 本件漫画及びαのデザインは、いずれも「美術の著作物」(10条1項4号)であり、Bが「著作者」として、著作権を享有する(2条1項2号、17条1項)。

(2)αが描かれた原画を掲載した本件パンフレットはαの「複製物」、本件漫画の1コマが印刷された本件チケットは本件漫画の「複製物」にあたり、これらの販売は「公衆」への「譲渡」(26条の2第1項)に該当する。

(3)以上により、BはDに対し、本件漫画及びαの譲渡権侵害(26条の2第1項)を理由に、本件パンフレット及び本件チケットの販売の差止めを請求することができる(112条1項)。

2.Dの反論

(1)本件パンフレットの販売について

 本件パンフレットの作成は、47条の権利制限規定により適法であるから、その販売も47条の10本文によって適法であり、譲渡権侵害にはあたらない。

(2)本件チケットの販売について

 本件チケットの作成は、32条の適法引用として適法であるから、その販売も47条の10本文によって適法であり、譲渡権侵害にはあたらない。

3.双方の主張の妥当性

(1)本件パンフレットの販売について

 本件イベントは、所有者の承諾を得て本件漫画の原画を展示するというものであるが、これは45条1項により、Bの展示権(25条)を侵害することなく行うことができるものである。そして、本件パンフレットは、原画の解説を付し本件イベント会場において観覧者に販売されるものであるから、「観覧者のため」の「小冊子」にあたり、47条の要件を充足するようにも思える。

 しかし、47条の権利制限規定の根拠は、観覧者への解説を目的とした小冊子に掲載するためであれば著作権者への経済的打撃は軽微なものにとどまるという点にあるところ、小冊子自体を「販売」する場合には、それによって当該著作物への需要に代替し、収益可能性を奪う点で、著作権者への経済的打撃はもはや軽微であるとはいえない。

 したがって、販売に供する本件パンフレットは、47条の「小冊子」には該当しないというべきである。よって、47条の10本文の適用はなく、Bの主張通り譲渡権侵害が成立する。

(2)本件チケットの販売について

 32条の適法引用に該当するためには、そもそも「引用」に該当しなければならない。「引用」に該当するか否かは、①主従関係性と②明瞭区別性により判断される。

 この点、①主従関係性は、単に量的な問題だけでなく、被引用部分が引用部分を補足説明・批判・例証・参考資料の提供をするなど、その内容においても従たる関係にあることを要する。本件チケットは、本件漫画の印刷部分を除けば、本件イベントの名称・日時場所が記載されているにすぎず、その内容面において本件漫画に従たる関係にあるものではないから、主従関係性が認められない。

 したがって、32条・47条の10本文の適用はなく、Bの主張通り譲渡権侵害が成立する。

 

第3 設問3について

1.E及びBの主張

(1)本件フィギュアは、「美術の著作物」として「著作物」に該当し(2条1項1号、10条1項4号)、Eが「著作者」として著作権を享有する(2条1項2号、17条1項)。

(2)本件フィギュアを小型化したプラスチック製人形の製造は、本件フィギュア及びαの「複製」にあたり、その提供は「公衆」への「譲渡」にあたる。

(3)したがって、E及びBは、Fに対し、複製権侵害(21条)及び譲渡権侵害(26条の2第1項)を理由に、上記製造及び提供の差止めを請求する事ができる(112条1項)。

2.Fの反論

 (途中答案)

 

【感想】
特許法(第1問)は、概ね論点自体を拾うことはできたように思うが、設問3で79条の2に言及できなかったのは痛いミスである。

著作権法(第2問)は例年と異なり、主張→反論→検討という憲法のような問題形式になっていたため、少し戸惑った。問題自体は難しくなく処理勝負になると思ったが、時間配分・紙幅配分を誤り、途中答案という結果になってしまった。