読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

司法試験受験生・司法修習生の就職活動③〜一般企業(インハウス) ※旧ブログ記事転載

1 インハウスローヤー(企業内弁護士)の現状

いわゆる法律事務所ではなく一般企業等に勤務する弁護士を「インハウスローヤー(企業内弁護士)」といいますが,近年そのような弁護士が急激に増えています。2014年4月14日付日経新聞によれば,インハウスの人数が今年初めて1000人を越え,5年前と比較して約3倍に増加したそうです。

 

従来,インハウスといえば,四大事務所等において長く企業法務案件に従事したベテランの弁護士が,企業側に請われる形で移籍するケースがほとんどでした(らしいです)。現在でもそういう形でインハウスに転向される方は一定数いらっしゃるとは思いますが,ここ数年におけるインハウスの急増は,法律事務所勤務を経ることなく弁護士登録と同時に企業に就職する「新人インハウス」の増加によるものと考えられます。日本組織内弁護士協会(JILA)が実施したアンケート調査においても,インハウスのうち弁護士経験年数5年未満の者の割合が53%となっており,法律事務所での勤務経験のない者の割合も45%となっていることがわかります。

 

また,このような新人インハウスの増加を受けて,慶応大学,神戸大学等一部の法科大学院では,インハウス志望者向けの授業を開講するなどの取り組みが始まっているようです。このような流れは今後もさらに加速すると思われ,企業側はインハウスの採用数を拡大していくでしょう。

 

司法修習生の現場レベル(?)では,まだまだインハウス志望はマイノリティという印象ですが,あと数年もすれば司法修習生側の認識も確実に変わってくるだろうと思います。

 

これから就職活動をされる司法試験受験生の方は,法律事務所だけでなく一般企業も有力な進路候補として検討対象にしてみてはいかがでしょうか。

  

2 東京三弁護士会合同就職説明会の重要性

インハウスの就活において,最も重要なイベントが「東京三弁護士会合同就職説明会」です。ぼくがインハウスに興味を持ったのも,この説明でとある企業のブースに立ち寄ったことがきっかけでした。

 

この説明会には,一般企業だけでなく法律事務所もブースを出しているのですが,インハウスに少しでも興味があるのであれば,以下の理由により,一般企業のブースの方を中心に回ることをオススメします。

  • 出展企業は有名上場企業が中心であるが,インハウスの採用情報はこの説明会でしか得られない可能性が高い(HP等にインハウスの採用情報が掲載されることは基本的にない)。
  • 企業については説明会に参加したこと自体が採用上有利な事情となりうる(説明会参加をエントリーの条件とする企業もある)。これに対し,法律事務所の多くはひまわりナビやアットリーガル等でも募集をしており,説明会不参加でも応募は可能であるし,参加の事実自体が採用上有利に考慮されることはおそらくない。
  • その企業におけるインハウスの業務内容を直接聞くことができる機会は他にない。法律事務所の業務は(取扱分野の差はあれど)基本的にどこも同じようなものであるが,インハウスの業務内容は企業によってかなり異なるので,しっかり情報収集しておく必要がある。

出展企業は事前に公表されるので,その時点で具体的に応募したいと思う企業があるのであれば,その企業の事業内容や最近のニューストピックについて事前に研究して臨むといいでしょう。

 

説明会では必ず質問タイムがあります。そこで担当者に「あーこの人はウチのことをよく調べてるなあ。ウチに興味をもってくれてるんだなあ」と思わせるような質問をすることができれば,担当者から顔と名前を覚えてもらえるかもしれません。

 

ぼくの印象としては,企業側は東京三弁護士会合同就職説明会にかなり気合を入れて参加しています。いい人がいれば,その場でチェックしておくくらいのことは普通にやっているだろうと思います。そして,当たり前ですが,説明会でプレゼンや司会をしている人は,採用担当者であるなどそれなりに採用の判断に影響力を持っている人であり,後の面接で顔を合わせることになります。

 

そうであれば,良い質問をするなどして担当者にアピールしておくことは,後の選考を有利に進めるための戦略として有効だろうと思います。もし公式の質問タイムで質問しにくいようであれば,後で個人的に質問するという形でもいいでしょう(場合によってはこちらの方が効果が大きいかも)。閉会間近になると人も減ってくるので,その時間帯なら担当者を捕まえやすいかもしれません。

 

後述しますが,つまるところ企業が採用上最も重視するのは,その企業で働きたいという熱意ですから,それを具体的な行動で示しておくことは非常に重要だということですね。

 

ちなみに,今年の開催日は10月13日(月)だそうです。合格発表前後から参加法律事務所・企業が公表され,エントリー受付が始まると思いますので,忘れずにエントリーしましょう。

 

3 ひまわりナビ・転職エージェントの活用

東京三弁護士会合同就職説明会以外でインハウスの採用情報を入手する手段としては,日弁連のひまわりナビ(企業用)と転職エージェントの活用が考えられます。ひまわりナビについてはサイトを見ていただければ分かると思うので,ここでは転職エージェントの活用について説明しようと思います。

 

転職エージェントとは,その名の通り基本的には経験弁護士の「転職」をメインとする人材事業者ですが,最近は司法修習生向けの求人も増えているようです。弁護士(修習生含む)の転職エージェントとしては,MS-Japanが有名です。無料で紹介を受けられるので,登録しておいて損はないでしょう。

 

大まかな流れとしては,最初にエージェントと会って経歴や希望等に関する簡単な面談を行い,その後エージェント側から希望に合った求人が随時紹介され,エントリーしたい求人があればその旨エージェントに伝えるという感じです。ぼくは結局1件もエントリーしなかったので,その後の流れについてはよく分かりませんが,基本的には書類選考→適性試験→面接複数回という一般的な選考過程をたどるようです

 

紹介される求人には,上場企業のほか非常場企業のものも多くあります。当然ながらインハウスがいない(インハウスを初めて採用する)企業も多くあります。

このような企業では,新人弁護士が初のインハウスとなる場合,周囲の過度の期待と自分の能力とのギャップに苦しむというケースもあるようです(その代わり待遇は良かったりするのですが)。また逆に,インハウスに期待する役割が不明確なまま,とりあえず採用はしてみたものの,インハウスの使い方がわからず任せる仕事がないなどといったケースも耳にします。

しかしその一方で,自分がその企業で第1号の弁護士となるわけですから,自分の力で新しい分野を切り開き,確固たる地位を築いてその企業の法務部作り上げていくという面白さはあるかもしれません。このあたりは考え方次第といえるでしょうが,いずれにしても,いろんな企業の情報を収集しておくことは重要だと思います。

  

4 エントリシート・面接のポイント

まず,法科大学院や司法試験の成績についてですが,法律事務所の場合とは異なり,あまり重視されていないように思います。少なくとも,ぼくがエントリーした企業では,大学学部・法科大学院の成績証明書の提出は求められませんでしたし,司法試験の成績表すら提出しなくていい企業もありました。

 

逆に,語学の成績(英語・中国語)については,エントリーした全ての企業で提出を求められ,面接でも話題になったので,それなりに重視しているのかもしれません。したがって,語学以外の成績に関しては,あまり気にする必要はないでしょう。

 

企業の就活していて強く感じたことは,エントリーシートでも面接でも,つまるところ,企業側が聞きたいことはたった一つだけなのだということです。

 

それは,「なぜその企業で弁護士として働きたいと思うのか」ということです。
 

ただ,少し分析的に見てみると,この問いに答えるためには,少なくとも以下の3つの点について回答を用意しなければならないように思います。

 

①そもそもなぜ「弁護士(法曹)」になろうと思ったのか?

②なぜ「企業内で」弁護士をやりたいと思ったのか?

③なぜインハウスとして「その企業(業界)で」働こうと思ったのか?

  

①そもそもなぜ「弁護士(法曹)」になろうと思ったのか?

司法試験受験生であれば,必ず弁護士や法曹を目指そうと思った理由があるはずです。それが最初から企業法務に関連したものであれば問題ないのですが,そうでない場合には(例えば,ぼくは当初刑事弁護人を志していました),なぜ企業法務へ興味を持つに至ったのかを説明する必要があるでしょう。

 

②なぜ「企業内で」弁護士をやりたいと思ったのか?

最初から企業法務に興味があった人であれ,勉強を開始してから企業法務に興味を持つに至った人であれ,企業法務に携わる手段として最初に考えるのは,企業法務系の法律事務所に勤務することでしょう。最初から法律事務所ではなく企業に行こうと考える人は,おそらくいないのではないかと思います(もっとも,今後はそういう人も出てくるだろうと思います)。少なくとも,ぼくはそうでした。

 

にもかかわらず,現在インハウスに興味を持つに至ったのであれば,それには必ずきっかけや理由があったはずです。それを,企業は聞きたいのです。法律事務所の弁護士と企業内の弁護士との役割を比較する際には,例えば,①紛争解決⇔紛争予防,②整えられた事実関係⇔生の事実関係,③第三者的立場⇔当事者的立場,といった視点で整理してみるといいでしょう。

 

③なぜインハウスとして「その企業(業界)で」働こうと思ったのか?

最後に,インハウスといっても企業によって期待される役割や業務内容は異なるので,なぜその企業・業界を志望するのかということを説明する必要があります。

 

志望理由を述べる際に注意していただきたいのは,「大型M&Aが多い」「知財訴訟が多い」「渉外取引が多い」などといった法務マターへの興味だけに拘泥しているようでは,ちょっと視野の狭い人物に見えてしまうということです。法務は,企業にとってはどこまでいっても「手段」であって,それ自体が「目的」とはなりえません。目的と関連付けることなく,「手段に興味があります!」ということだけを前面に出しても,採用側としては「じゃあ法律事務所にいけばいいじゃん」と思ってしまうわけです。

 

法務はあくまでも手段であるということを理解した上で,法務マターへの興味を,その企業の事業内容や経営方針,商品・サービスそのものと関連付けて示すことができれば,視野の広い人物であるという評価を得られるでしょう。

法律からは少し離れて,「そもそもなぜ大型M&Aを頻繁に行う必要があるのか」,「知財訴訟で問題となっている製品はその企業の経営戦略上どういう意味を持つか」,「外国企業を選んで取引している理由な何か」,などといった点に思いを巡らせてみるといいかもしれません。大規模企業法務系法律事務所の就活と同様,日ごろから日経新聞等を読む習慣を付けておくとよいでしょう。

 

5 適性試験の対策

企業の就活をしていて最もイヤだったのが,いわゆる適性試験です。
 

どういう趣旨で行っていて,どの程度選考に影響を及ぼしているのかもよく分かりませんが,インハウスになろうとする以上,避けて通ることはできません。選考上の位置づけは企業により異なるとは思いますが,ぼくの経験上,概ね次のように考えておけばいいかと思います。


まず,面接の前に適性試験が実施される場合には,試験結果を選考上それなりに考慮していると考えてよいでしょう。おそらく,多数の応募者を形式的に絞り込むために実施しているものと考えられます。したがって,選考フローがこのようになっている場合には,しっかりと適性試験の対策を行っておく必要があります。

 

これに対し,面接の後に実施される場合には,人事管理の便宜上行っているものにすぎず,選考にはほとんど影響を与えていないと思われます(面接の段階で採否はほぼ決定しています)。とはいえ,あまりにも点数が悪いと具合が悪いでしょうから,適性試験の対策もある程度はしておく必要があるでしょう。

 

実施される適性試験の種類は企業によって異なりますが,インハウスの募集企業ではSPIとGABを採用しているところが多いです。GABは総合商社が主に採用しており,それ以外の企業はSPIという感じですが,詳しくは各就職情報サイトや適性試験関係の書籍で確認して下さい。

 

出題内容としては,大雑把に言えば法科大学院進学時に受験した適性試験をもう少し算数っぽくして,若干時間に余裕を持たせたような感じです(ただし,GABは時間がかなりタイトです)。

 

 新たな知識や技能の習得が必要な試験ではないので,2週間程度問題演習をして慣れれば十分に対応が可能であると思います(少なくとも相対的には浮き上がることができます)。

 

 オススメの書籍として,以下のものを挙げておきます。

 

司法試験が終わったのにまた試験か・・・と辟易してしまうところですが,こればっかりは仕方がないので,しっかり対策をして臨みましょう。

 

6 インハウスの待遇について

最後に,これまであえて触れてこなかった待遇に関して述べておこうと思います。

 

一般的には,新人インハウスの給与は,新人法律事務所勤務弁護士の給与よりも低いと考えられているように思います。ぼくもそのように考えていましたし,最初から待遇で選ぼうとは考えていなかったので,正直なところインハウスの給与にあまり期待はしていませんでした。

 

ところが,実際に就活をしてみると,思ったほどそうでもなく,法律事務所よりもむしろ一般企業の方が年俸ベースでは高いところもあることが分かりました。もちろん,それでも大規模企業法務系法律事務所には遠く及びませんが。笑

 

ぼくは,法律事務所から2つ,一般企業から2つの内定をいただいたのですが,その際提示された年俸額を序列化すると,一般企業A > 法律事務所B > 一般企業C >法律事務所D という感じでした。ただ,上記の比較はあくまでも年俸ベースであり,企業の場合はボーナスの割合が高いので,月々の手取りという意味では,法律事務所の方が高額といえるかもしれません。

 

具体的な金額を示していないのであまり参考にならなかったかもしれませんが,個人的な考えとしては,自分として最低限確保したい収入を決め,それを上回る収入を得られる法律事務所・企業であれば,あとはシンプルに仕事内容が面白いと思えるかどうかで決めればいいのではないかと思います。

 

法曹資格を取得するためには莫大な金銭的負担がかかり,少なくない借金をかかえている人も多いとは思いますが,たかだか1年目の年俸に目を奪われて就職先を選ぶのはちょっとつまらないような気がします。ぼくも偉そうなことをいえる立場ではありませんが,目先の利益ではなく,10年後何をしていたいか,どういう自分でありたいかを見据えて,就職先は考えたいものです。

 

以上,インハウスの就職について書いてみました。