【書評】磯崎哲也著『起業のファイナンス』

久しぶりにまとまった時間が取れたので、GWは読書に没頭しています。本日読んだのはこちら。

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(リンクを貼って気付きましたが、増補改訂版が出ていたのですね…。今回私が読んだのは前から持っていた初版ですので、ご了承ください。増補改訂版も時間があれば読ませていただこうと思います。)

 

はじめて本書を読んだのは司法修習生の時でしたが、その後実務に出て、ファイナンス契約やジョイントベンチャー契約・株主間契約の実務をそれなりに経験した今あらためて読み返してみると、当時とは頭の入り方が全然違います。何度も頷きながら、楽しんで読めました。まさに「百聞は一見に如かず」です。

 

法的な部分の記述はやや薄いですが、(特にアーリーステージの)ベンチャー企業の資金調達の全体像が平易な語り口で解説されています。そして、本書で何より『刺さる』のが、著者・磯崎氏のベンチャー企業支援を通して日本経済を発展させたいというアツい想いです。

「日本のベンチャー投資のGDP比が他の世界各国と比較して非常に小さい」というのは事実ですが、現在、規制等によって、ベンチャー企業に資金が流れない構造になっているわけではありません。必要なのは「水道管」ではなく、水をほしがる需要、すなわち「ベンチャーをやってみようという(イケてる)ヤツら」のほうなのです。

そして、土から芽を出したばかりの双葉に水をジャブジャブ与えても根が腐ってしまうだけです。水道管の末端で必要な時に必要なだけ水を散布するインテリジェントな「スプリンクラー」(ベンチャーキャピタルやエンジェルなどの投資家やベンチャー実務の専門家等)が重要なのです。

この本は、その「スプリンクラー」の構造や、それがどうすればうまく機能するかについて書かせていただきました。(本書323頁)

 

法律事務所や弁護士も重要な「スプリンクラー」の一つです。

実際に、最近、ベンチャー法務を専門とする法律事務所や(特に若手の)弁護士さんが増えてきているように思います。それ自体に全くイチャモンをつける気はありませんし、ベンチャー起業をサポートしたいという法律家が出てきていることは間違いなく望ましい流れです。

ただ、よく考えてみると「ベンチャー法務」とは何ぞや?という気もします。個々のベンチャー企業の事業内容(eコマース、SNS、コンテンツ配信、Fintech etc.)に応じた専門性というのならまだ分かるのですが、「"ベンチャー起業"に固有の法分野やリーガル的な視点ってなんだろな?」と。

その答えの一つが、ファイナンス手法の違いなのだと思います。

シンプルにいうと、大企業(特に上場企業)はデットファイナンス中心になり、いわゆるベンチャー企業はエクイティファイナンス中心になるということですが、このあたりのことは今後このブログで詳しく解説していきたいと思っているところです。

 

なお、本書に興味を持たれた方は、続編である『起業のエクイティ・ファイナンスー経済革命のための株式と契約』も併せてお読みになることをオススメします。

…と言いつつ、私はまだざっとしか読めていないので、読了次第コメントしたいと思います。。

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